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第8話 伊積恭介
そこに入っているはずの自分の上履きがなかった。
ずきんと腰が痛んで、思わず声が出そうになり咄嗟に唇を噛んだ。
ぱたんと戸を閉めて辺りをキョロキョロと見回す。
「ちょっと邪魔」
「...あ、すみませ..」
後ろからやってきた女子生徒に睨まれ硝子は慌てて避けた。
彼女はさっさと上履きに履き替え、横目で軽蔑したような視線を送り、
先に待っていた女生徒に駆け寄った。
「なにあれ」
「きもちわるー」
笑い合いながら二人は去って行く。
次々に校舎内へと消えて行く生徒達。
硝子は邪魔にならないように避けながら上履きを探した。
もういいかな、無くても。
そう諦めかけて天井を仰いだ。
「....あ。あった..」
上履きは靴箱の上に乗せられていた。
姑息なイタズラだったが、硝子は見つかってよかったと思いながらそこへと手を伸ばす。
しかし届かない。
必死に背伸びしようと爪先立ちになるが、
再び腰に激痛が走り思わずしゃがんでしまう。
「...っ、た...」
息を吸うのにも痛みが走って、涙目になりながら痛みが過ぎ去るのを待っていた。
ようやく少し楽になってきたところで再びふらふらと立ち上がり、上履きに手を伸ばす。
「う...、っん、」
唸りながら爪先立ちで手を伸ばし続けた、
あと少し、あと少しなんだけど...。
そう思った矢先パッと横から手が伸び、
上履きは取られてしまった。
硝子は愕然とし、そのままの状態でそちらを見ると
そこには茶髪の生徒が立っていた。
制服も着崩され耳には校則違反のピアスがいくつも開いていて、見るからに不良と思しき生徒だ。
そんな人種とは一切関わりがなかった硝子は
一瞬どきりとしてしまったが、よく見ると見覚えがある。
「雛瀬先輩、おはようござい、ます」
生徒は目を泳がせながら小さな声で挨拶をした。
その声で、硝子は彼のことを思い出す。
.....伊積恭介だ。
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