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第16話 来訪者

しんと静まり返った保健室には雨の音が響いているだけで 教室よりいくらかマシに思えるのだった。 ふう、と息を吐いて硝子は入り口に一番近いベッドに腰を下ろして そのまま横に倒れこんだ。 雨の音が聞こえる。 硝子はゆっくりと目を閉じつつあったが、 先日の伊積恭介とのこのベッドの上での思い出が蘇ってしまい思わず飛び起きてしまう。 その瞬間ガチャリと保険室のドアが開いた。 「.....あ、いた。雛瀬先輩」 ひょこりと顔を出したのは今まさに思い出していた伊積恭介であった。 硝子が驚きすぎて何も言えずにいると彼はつかつかとこちらに近寄って来て断りもなく隣に座った。 「教室に行ったんすけどいなかったから、 ここかなーって。大当たり」 「...え、...なんで...」 「なんでって...雛瀬先輩の顔を見たいからに決まってるじゃないですかー」 恭介はどこか嬉しそうに笑うと、 手に持っていた包みを広げ始めた。 何故顔を見たいというのだろうか。 硝子は戸惑いながらもなんとなく彼から少し離れるのだった。 「あと雛瀬先輩と飯食いたかったんで、俺」 彼が包みから取り出したのは弁当箱のようだった。 こんなところで広げていいのかと思うが硝子は、そう...、としか言えないのだった。 かぱりと蓋を開けるその中身は、とても綺麗な弁当が詰まっていて 芸術品のようなその箱の中を思わず見つめてしまうのであった。 しかしすぐに気分が悪くなり、硝子は俯いた。 「よかったら一緒に...」 「...いや...あの....、俺は、気分悪いから...」 硝子はぼそぼそと呟き上履きを脱ぐとベッドの上で膝を抱える。 本当は横になりたいが、彼がいる手前そういうわけにもいかない。 すると恭介の手が伸びて来て、前髪を掻き分けられた。

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