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第19話 部屋

「....硝子、帰ってたのか。 物音がするから泥棒かと思ったよ」 そう声をかけたのは兄の清一であった。 爽やかな好青年である兄だったが一瞬だけ嫌そうな顔をしてため息を零す。 「...すみません」 無視をするわけもいかず、 硝子は濡れた傘の入ったビニール袋を抱きしめて俯いた。 「どうしたの?清一」 母親の声が聞こえ、びくりと身体が強張ってしまう。 清一はリビングを振り返り笑顔を浮かべて居た。 「なんでもないよ」 そう言いながらも片手で、行け、と犬でも追い払うようにジェスチャーしてくる。 硝子は後退り、さっさと階段を上がった。 二階に上がってすぐ、同じ大きさのドアが二つ並んでいた。 一方には【真姫のおへや】と書かれたピンク色の札が下がっていてそこは妹の部屋である。 何も書かれていないのが兄の清一の部屋だ。 二つのドアを通り過ぎ、 さらに廊下を突き当たった引き戸が 硝子がこの家にいる時間の大半を過ごす部屋だった。 小さな窓が天井付近にあり、 不自然な板が壁から突き出ていて1畳半ほどのその部屋は 本来ならば物置として使われなければならない部屋だった。 部屋が二つなのに対し子どもが三人だから仕方ない。と父は言うし、硝子も納得していた。 狭い所の方が落ち着くし、分相応だとも思っている。 鞄や靴などを部屋の隅に寄せ、 畳んで置かれた毛布に突っ伏した。 この部屋は何の音も聞こえない。 窓も小さくて狭いし、電気も無いから真っ暗だ。 闇のような部屋が、硝子は嫌いではなかった。 寧ろ好きにならざるを得ない。 物心ついた時から過ごしてきた愛着のある場所なのだから。 それでも時々この暗闇が恐ろしく感じたりもする。 まるで飲み込まれそうで、溶けていってしまいそうで それはならそれで、いいのかもしれないけれど。 「......頭痛いな」 ポツリと呟いて硝子はそのままの状態で目を閉じた。

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