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第20話 食事
「硝子、夕飯だよ」
そんな声とともにノックの音が響き、
硝子は眼をこすりながら起き上がった。
少し寝てしまっていたらしい。
日が落ち、部屋の中は本当に真っ暗になってしまっていた。
硝子は立ち上がり、引き戸をそっと開けた。
その姿はもうなかったが、
声をかけてくれたのは兄、清一だろうか。
硝子は階段をそっと降りた。
この家は仲の良い家庭なので夕食は必ず全員席に着くのがルールなのである。
そのことに対し誰も文句を言わないし、
寧ろ至福の時間とも言えるだろう。
しかし硝子は申し訳ないような気分になってしまうのだった。
物は少なく整理されたリビングの中央のテーブルには既に食事が並んでいて
両親と妹が揃っていた。
振り返った妹、真姫はおさげにした髪を弄りながらこちらを睨んでくる。
「制服着替えてないの?不潔なんですけど」
「..あ...すみません」
「早く座りなさい。」
「.....はい」
父の厳しい声があり、硝子はそそくさと真姫の隣の席に着いた。
真姫はわざとらしく音を立てて椅子を硝子から離す。
兄がグラスとワインを持ってやってきて、父と母のグラスに注いでやっている。
今日の食卓のメインディッシュはハンバーグのようだった。
中央には彩りが美しいサラダが置かれ、取り置きの皿が...4つ。
それぞれにスープもついていた。
硝子の手元には茶碗の三分の一ほどのご飯とお椀半分にも満たないスープ。小さな冷奴。
のみであった。
ダイエットメニューのようなものを揃えられたが、
硝子は何とも思わずみんなが手を合わせて食べ始めた後にようやくのろのろと手を合わせたのだった。
「清一、大学はどう?」
「まぁそこそこ、かな」
「真姫もそこそこたのしーよ」
「中学生は気楽なもんだね」
「はぁ?中学生も大変なんですけど!」
兄妹は仲が良さげに話していて、両親はそれを幸せそうに聞いている。
硝子はのろのろと冷たいご飯を口に運びながら、カーテンの隙間を見つめていた。
「二人とも、立派に成長してくれてママ嬉しいわ」
母は本当に幸せそうに微笑んでいる。
硝子はそれを目の端で確認しながらも、スープを啜った。
味はわからない。具もあんまり入っていないし、暖かくもない。
でもそれもいつものことで、硝子にとって食事とは
ただ生命をギリギリ維持出来る程度の必要行為だ。
この食卓に置いて、食事を楽しんだりする事は自分には許されない。
「..........ごちそうさまでした。」
全ての食材を綺麗に食べてしまうと
手を合わせて呟く、器を重ねては席を立った。
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