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第21話 いつも通り

「...あんたも見習いなさいね、硝子。」 流し台へと去っていく硝子の背中に母親の声が刺さった。 硝子はびくんと背筋が伸びる気がして、食器を持つ手に力が入ってしまう。 「ただでさえ出来が悪いのに、動きもグズだし ぼそぼそ喋るのも気味が悪いからやめなさい」 先ほどとは打って変わって、鋭く厳しい声が突き刺さる。 明らかに向けられる嫌悪の声色に 硝子は、すみません、と謝り逃げるように流し台に向かった。 「本当、出来が悪い子。」 硝子は食器を洗ってしまうと、早々にリビングから退散した。 他の家族の料理はまだたくさん残っていて、再び4人は笑いながら食事を楽しみ始める。 母があんな風にあからさまに自分を蔑む事は今に始まった事ではないし、 硝子は仕方のない事だと思っていた。 自分の部屋に戻ってくると、制服からパジャマに着替え 机がわりに使っている壁から飛び出た板の上に眼鏡を置き 硝子は毛布を被って横になった。 夜中に起きて入浴せねばならない。それまでの仮眠である。 この生活に不満は全くない。 抜け出したいとも思わないし、硝子はこれが普通だと思っているのだから。 将来のことなど考えることもできないし、 その点兄や妹は未来の話を幾らでも語れるのだから凄いと思う。 自分から何かを変えようなどと思ったことはない。 それ以前に自分は、生かされているだけ幸せなのだから。 何も思わない。 全てがいつも通りの生活....。 いつも通り、でいい。 それ以上は何も望んではいなかった。

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