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第26話 お弁当

恭介はまた勝手に隣に座ると、 膝の上でもう一つの包みをほどき始めた。 昨日見たのと同じ、黒くて四角い弁当箱だった。 「もしかしてもう食べちゃったとか? んーでも確か先輩の鞄の中にはそれらしきものは...」 恭介は硝子が呆然としていることに気付き、考えるように首を傾けた。 食べてはいない。 弁当など自分のために用意されるはずもないのだから。 「...なんで..」 「なんでって..雛瀬先輩お腹空いてるんじゃないかなーと思って」 「...意味が...よく..、分からないのですが」 本当に意味不明で。 硝子はなぜか泣きだしそうになりながら、白い包みを見下ろした。 「どうして、俺なんかに....」 「だからぁ、雛瀬先輩が好きだからに決まってるじゃないですか」 「..だ、だからなんで..?好きってなんで..意味が全く..」 ひたすら、混乱だった。 好きだとか、お腹が空いてるだとか どうしてそんなことを気にしてくれるのか。 しかし恭介は不思議そうに瞬きをして、硝子が抱えていた上履きを奪ってしまった。 そして硝子の手の中の包みを無理矢理開けてくる。 「なんでって言われても、いちいち理由なんて思い浮かばないですよ。 俺がしたいから!そんだけ」 「でも…」 恭介はそう言って包みを開けてしまった。 中から出てきた箱は、抜けるような水色の弁当箱で 彼はにこにこと微笑んで、 本当に、"そんだけ"なんだ、と硝子は思った。 「はい。食べましょー。 あ、ちゃんと近所のスーパーで買ったものだけで作ったので、変なものは入ってないです! 安心してください!」 恭介は手を合わせると黒い弁当箱の蓋を開け、食べ始めてしまった。 自分のためにわざわざ作ってきてくれたのだとしたら、捨てるわけにもいかない。 硝子は恐々と蓋を開けた。 「........。」 昔遠足の時、一度だけ母親が作ってくれた弁当は 米と海苔だけのシンプルなものだった。 それでも自分のために作ってくれたのだから、有り難く頂いて それは心なしか、美味しいと感じた唯一の食事だった。 それ以降弁当が必要なシーンではコンビニか、あるいは空の弁当箱で難をしのぐばかりで 誰かが作った弁当なんて、自分の膝の上に乗ることはないと思っていたのに。 「...先輩?嫌いなもの入ってた?」 固まっている硝子に恭介が不安げな声を出す。

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