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第27話 空腹

箱を抱えたまま硝子はその中身に魅入っていた。 昨日盗み見たような美しいお弁当が、そこに広がっていたから。 唐揚げとレタスと、綺麗にカットされた林檎。 行儀よく詰められた白米の上には胡麻が散りばめられていて プチトマトにわざわざピックがさしてあって、 美しく巻かれた卵焼きも合わさって彩り豊かなその中身は 遠くから見つめるものだと思っていたから。 「....こんな...綺麗なお弁当、見たことない....」 呆然と呟いてしまうと、じわりと視界が滲んだ。 こんな素晴らしいもの自分が食べるわけにはいかない。 硝子は蓋を閉じようとしたが横から恭介の手が入り阻止されてしまった。 「そう思うなら食べてください」 恭介の言葉に散々迷ったが、結局硝子は断りきれず弁当を食べることにした。 唐揚げなんて食べるのは給食以来ではないだろうか。 「....いただきます」 両手を合わせて、何から食べていいのやらと迷い 震える手を落ち着かせながらようやく一口口に運べると、 自分がお腹が空いていた事を思い出させてくれるようだった。 「美味しい?」 恭介の質問に硝子は深く頷いた。 ...こんなに美味しいもの、食べたことがない。 硝子は夢中になって箸を進めた。 至近距離で恭介が観察していても気付くことなく あっという間に弁当箱を空にしてしまって、 しまった、と思いながらも恐々と隣を見ると 恭介は心底嬉しそうににやにやと笑っていた。 「美味しかったですか?」 「…う、…はい…」 「雛瀬先輩かわいい」 そう言って彼は急に頬に口付けてきた。 抵抗する間も無くぽかんとしていると、 恭介は空になった弁当箱を奪って片付け始めた。

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