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第30話 ツケ
それから、不思議な後輩伊積恭介は毎日のように弁当を持って現れた。
最初は見つからないようにと隠れていたが、
監視カメラでもついているように恭介は見つけ出してきたし
最近では諦めて、昼休みになれば
校舎の裏手の小屋の前に集合するようになってしまった。
恭介の弁当は毎日美しく、バリエーションも豊かで
1日たりとも同じメニューだったことはない。
見た目はとても料理なんてしそうにないのに
人は見かけで判断してはいけないというのは本当らしい。
更には一緒に帰るのも日課になりつつある。
なんの利益も見返りもなく一緒にいてくれるだなんてにわかには信じられないのだが
恭介は時々鼻から血を吹き出したりしている以外は
いつもにこにこしていたし、確かに他意はなさそうだった。
それが余計に不思議に思うのだ。
しかし恭介の栄養バランスの素晴らしい弁当を食べているせいかいつもより体調がいい日が続いて
硝子は期末テストでつい問題を多く解きすぎてしまったりしたのだった。
まあたまにはいいか。と思える自分の心にも
いかんせん疑問はあるのだけれど。
ようやく全科目のテストが終わり、
夏休みはもう間近に迫っていた。
硝子は特に楽しみになどしていないのだが周りの浮かれた雰囲気に染められて、
なんとなく足取りが軽く
いつもならだらだら歩いて他の生徒より遅れて正面玄関に向かうのだが
今日は少し早いペースで降りてきてしまった。
そんないつもと違う事ばかりをしてしまった
ツケが回ってきたに違いない。
硝子は階段の途中で女子生徒数名に囲まれ行く手を阻まれていた。
茶色い髪を巻いている女子、さらさら黒髪の女子、
ともかくみんなおしゃれには気を使い
化粧もバッチリと塗りたくられ、香水の香りがきつかった。
そんなヒエラルキー最高峰の生徒たちと口を聞いた事などあるはずもなく
硝子は鞄を握り締めたまま黙って俯いていた。
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