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第34話 嫌
恐怖しているが逃げることも出来ず
気付けば人気のないトイレに連れてこられ
個室に入るとばたんとドアを閉められそこに押し付けられた。
「...っ、ごめん雛瀬先輩、ごめん...」
彼は泣き出しそうな声で呟き硝子の身体を力強く抱きしめた。
彼の鼓動や体温が伝わってきて、硝子は不思議な気持ちになりながらも
その悲痛な声には心が痛んでしまう。
やがて恭介は硝子を便座に座らせ、頬に触れてくる。
その必死な眼差しに硝子は、
やっぱりこの人のそばにいてはいけないのだと思った。
「....いずみくん、もう俺と関わらない方が...いいよ」
彼が世話を焼いたり、こんな風に優しくするべき相手は自分などではない。
自分は何も返せない、それどころか、仇で返してしまっている。
「雛瀬先輩...?」
「俺といたって何の得にも、ならないし..グズだから、イライラさせるし
気持ち、悪い...だろうし、いずみくんを困らせるの俺も嫌だから...っ」
必死に叫ぶと恭介は黙っていて、硝子はぎゅっと目を閉じた。
1人でいなければならない。
自分のような人間は、誰かと深く関わったりしてはいけない。
きっと彼は優しいのだろう。
自分のようなぐずぐずした人間を可哀想に思ってくれていただけなのだ。
硝子がそうやって諦めをつけてまた泣いてしまわぬように唇を噛んでいるが、
恭介が去る気配は一向にない。
「......いやだ..」
ぼそりと震える声が聞こえ、硝子は思わず彼を見てしまった。
恭介は突っ立ったままだらだらと涙を流していて、硝子は思わず息を飲んだ。
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