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第46話 拉致
全ての授業が終わると硝子はのろのろと教室を出た。
廊下を進むと、階段の近くで壁を背に立っている恭介の姿が見えた。
女子軍に囲まれる事件の後恭介は2年生の教室がある2階まで迎えに来てくれるようになってしまった。
彼は黙って立っているとドラマの中の登場人物のようで、
近くを通った女子生徒が振り返りきゃっきゃとはしゃいでいる。
「あ、雛瀬先輩!」
できればバレないように通りすぎたかったのだが、
恭介は早々に気付きこちらに駆け寄ってくる。
「お疲れ様です」
「..うん..目立つねいずみくん..」
二人は並んで歩き、やがて廊下に差し掛かった。
恭介は今日の出来事を簡潔に話してくる。
それを聞くのは、なんだかおとぎ話を聞いているようで硝子は嫌いではなかった。
「あー!いた!雛瀬!」
急に後ろから大声で叫ばれ、二人は同時に振り返った。
階段の一番上に、赤川茶々が立っていた。
夏の手前だというのに長袖の制服を着ている茶々は、首から大きなカメラをぶら下げている。
「話そーって言ったじゃーん」
茶々は唇を尖らせながら階段を降りてくる。
「あ...すみませ...」
「ちょい来て」
「へ..うぁ!?」
風のように二人の間に割って入った茶々は、
通り抜けると同時に硝子の腕を掴んだ。
そのまま引っ張られ硝子は一緒に走り出してしまう。
「雛瀬先輩!?」
恭介の声が聞こえて振り返るが、
茶々がすごい勢いで廊下に飛び降りたので硝子は転けないようになるのが必死であった。
「赤川またお前か!廊下走んな!」
「はーい!」
後ろから教師に怒鳴られたが茶々は片手を上げて構うことなく廊下を走り抜けた。
そのエネルギーに硝子は酸欠で死んでしまいそうになりながら必死についていった。
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