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第58話 司書教諭

誰かのために何かが出来ることがこんなに楽しいことだとは思わなかった。 部員約1名の茶々の新聞部(非公式)を手伝うようになってから 放課後は図書室に行くのが日課になっていた。 おしゃべりな茶々と恭介の会話は漫才のような攻防で聞いていてハラハラすることもあるのだが なんとなく同じ空間に敵意のない人間がいるというのは とても安心できる気がして、硝子は幸せだった。 しかし今日は一人で作業をする硝子である。 茶々は、獲物がかかった、と不穏な台詞を吐いて 図書室を飛び出して行ってしまい、 恭介は何故か来ない。 図書室は誰もおらず、どことなく寂しい気持ちさえ生まれてしまう。 一人でいたって平気だったはずなのに、 どうして寂しいなどと思うのか。 随分と贅沢になったものである。 それが少し怖い気もして、硝子は考えないようにするのだった。 「あら。茶々君じゃない子がいる」 後ろから声がかかり、びくりと身体を強張らせる。 思わず突っ伏してしまいそうになると、覗き込むように横からひょこりと現れたのは 一瞬女性とも見紛うような、サラサラの髪を一つにまとめた青年であった。 長い睫毛をパタパタと揺らし、その瞳は新聞へと向けられている。 「わぁ綺麗な文字!あなたが書いたの?」 こちらに顔を向けられ、硝子はおずおずと頷いた。 「...は、はい..」 必死に頷くと、青年はくすくすと上品に笑った。 首から名札が下がっていて、どうやら教員らしく 硝子は始業式などの記憶を必死に呼び起こし彼が 司書教諭、図書室の先生だったような、と考えた。 今まで寄り付かなかったのでうろ覚えだが。 「でもここは部室じゃないんだけどなぁ ま、誰もこないけどね」 青年は肩を竦めて困ったように笑った。 仕草や所作が美しく、硝子は思わず見惚れてしまいそうになってしまう。 こんな綺麗な先生がいただなんて。

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