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第60話 ケーキ

「お疲れ様です雛瀬先輩」 不意に後ろから声をかけられ硝子は振り返った。 いつの間に入ってきたのか恭介が不機嫌そうな顔で立っている。 彼はなぜか皿をウェイターのように持っていた。 「あら伊積君珍しいわね」 「環ちゃんこそなんでいるわけ..」 「だって図書室のせんせーだもーん。」 二人は顔馴染みらしかった。 硝子が戸惑っていると恭介はいつもの、硝子の隣の席に腰をおろす。 「まさか、伊積君も新聞部に?」 「そんなわけ...手伝ってるだけです。渋々、嫌々!」 「まー丸くなったわね...入学した時なんて大変だったのに…」 「環先生!」 「あらやだ」 環先生は口元に片手を当てくすくすと笑った。 恭介はどこか悔しそうな顔をして、はぁ。とため息をこぼす。 彼にも色々事情があるらしい。 「...ごめんね先輩遅くなって。これ作ってて」 恭介は硝子に向き直るとそう言い、手に持った皿を硝子の前に置いた。 白い紙皿の上にラップがされた茶色い物体が乗っていて 心なしか甘い香りがする。 「パウンドケーキ...なんですけど.....」 ケーキ。 存在は知っているものの、それが実際に目の前に出てきた事があっただろうか。 「い、伊積君が作ったの!?」 環先生が驚いたような声を出しているが恭介は無視してラップを取った。 重ねられていた皿を取り出し、ナイフで切り分け始める。
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