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第61話 フォーク

「はい。雛瀬先輩」 恭介は微笑んで硝子に皿を差し出してきた。 綺麗に切られたパウンドケーキ。 自分が受け取ってもいいものなのか。 硝子は恐々と皿を受け取った。 「図書室は飲食...」 「仕方ない。環ちゃんにも分けてあげます」 「えー?もーしょうがないわね...。 じゃあせっかくだし紅茶淹れてあげようかしらね」 彼はそう言ってどこかへ消えてしまった。 恭介は半分になったパウンドケーキを更に半分にしている。 「あーあ。全部雛瀬先輩に食べて欲しかったのに」 そんな事を言う彼に硝子は皿の上のケーキを見つめた。 自分のために、誰かが作ってくれたケーキ。 そんな素敵なものを食べられる日が来るだなんて夢にも思わなかった。 「やば、フォーク忘れた」 手掴み..いや先輩の手を汚すわけには..、と恭介は ぶつぶつ呟きながらも皿にケーキを乗せている。 「ふっふっふお困りのようだねお二方」 突然声が聞こえ顔を上げると、 窓の向こうに茶々が何故か格好つけて立っていた。 獲物とやらは仕留められたのだろうか。 「うわ..増えた..」 「人をワカメみたいにいうなーせっかくこれを拝借してきてあげたのに」 茶々はそう言いながら フォークを4本指の間に挟み厨二病なポーズをとった。 「欲しい?」 「何が望みだ……」 「ウチもケーキ食べたいなぁ」 「ぐ...相変わらずの悪徳業者め」 彼は窓枠に頬杖をつきながら歌うように言った。 恭介は暫く震えていたがやがて二つになったケーキを更に小さくしようとしたので 硝子は慌てて彼の服を掴んだ。

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