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第62話 紅茶探偵
「い、いずみくん、俺のを」
「そんな、先輩のために焼いたのに」
「こんなには、もらえないし...」
「なんと慈悲深い....尊い.....雛瀬先輩に感謝しろよ!」
「やったー」
茶々はそう言っては窓を乗り越え図書室内に入ってきた。
ドアを使わないのは何故なのか。
そうこうしていると環先生が戻ってくる。
ポットとカップの入ったトレーを持っていて、
紅茶のいい香りが図書室を包んだ。
「あら茶々君。よかったわね部員増えて」
「えへっへーそうなんだよぉ」
「やだカップもう一つ必要ね」
「あ、ご心配なく。想定済みです」
茶々はそう言ってどこからともなくカップを取り出した。
彼は記者というより探偵か何かなのではないだろうか。
全員均一に分けられたケーキと紅茶。
それぞれ席に着くと、茶々と環は両手を合わせた。
「いただきますっ」
「いただきまーす」
そう言って2人は食べ始める。
ちらりと隣を見ると、恭介はどうぞとでもいうように微笑んでいて
硝子はおずおずと両手を合わせた。
「....いただき、ます..」
小さな声で呟き、恐々とフォークを手に取った。
茶色いパウンドケーキは、わずかな抵抗を見せながらもフォークを受け入れ切り離された。
苦戦しながら一口大に切ってフォークに刺し、口に運ぶ。
家族の誰かの誕生日の日などに家でケーキを見たことはあっても、
それを食べたことはなく。
生クリームが乗っているようなものでなくても、
口の中に広がる甘みが頭の中を幸せにしてくれるようで
硝子はぎゅっとテーブルの下で制服のシャツを握り締めた。
「どうですか?美味しい?」
「......うん...すごく、すごく美味しい」
硝子は思わず彼の方を見上げた。
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