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第71話 だいじ

それから恭介はなぜかはぁはぁ言いながらも食べさせてくれて 綺麗な色の透明の物体がゼリーだったという事も知った。 給食の容器に入ったものしか見たことがなかったから、あんなに綺麗なものだとは今まで知らなかった。 夕方送るから寝てて、とまた横にさせられ 布団を被せられてしまった。 「...いずみくんは、どうして俺にこんなことしてくれるの」 立ち去ろうとする彼の背中に声をかけた。 眼鏡を外してしまったからまたぼやけてしまったのだけれど、恭介は振りかえりこちらに近寄った。 「雛瀬先輩が大事だから」 「...だいじ..?」 「そう。大好きで大切で大事」 恭介はそう言って硝子の頭を撫でながら微笑んだ。 そんなことを言ってもらう資格なんてないのに。 彼が自分に笑いかけるたびに胸がぎゅっと締め付けられるように痛い。 「だから先輩、もっと頼って欲しい。 辛い時とか助けて欲しい時とか、俺頑張るから、 困ったら俺に教えてください」 どこか泣きそうな目をする彼に、硝子は心が痛くて 彼に頭を撫でられながら、目を細めた。 「...俺はいずみくんに、助けてもらう資格なんてないよ…」 「資格とか要らないって、当たり前のことなんだから」 「当たり前...?」 「そうです。先輩が困ってたら俺が助けるのは当たり前」 「.....俺...何の役にも立たないのに...」 「だぁから...役に立つとかじゃなくって..」 呆れたように恭介はため息を零し、 どうしたら伝わるのかな、と呟いた。 困らせているのかもしれない。 硝子は黙った方が良さそうだと思い、布団の中に潜り込んだ。 「...おやすみ、雛瀬先輩」 恭介の優しい声が聞こえて、やがてパタンとドアが静かに閉じられた。 布団の中は、柔らかくてあのおかゆのように優しく暖めてくれる。 じっとしていると恭介の匂いがする。 胸がぎゅっと締め付けられて苦しい、その正体もわからず どうして自分なのだろうと思いながら ふわふわと、眠りの世界に落ちていった。 なんの役にも立たない自分を、 どうして大事だというのだろう。

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