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第75話 聖域

恭介は鼻血を滴らせながらようやくマンションにまで戻ってくると、しーんとした部屋の中電気をつけ 先程まで硝子が寝ていたベッドを見下ろした。 うずうずざわざわと身体の細胞が叫んでいる。 しかしここはマンションで、壁は薄くはないと思うのだが実際に叫ぶわけにもいかず 恭介は床に座り込みベッドに顔を近付けた。 「あああああ雛瀬先輩!メッッッチャ可愛いんですけどォォ!」 頭を抱えながら結局叫んでしまい、 抱えてしまった看病してしまった!という事実にひたすらうぎゃーとなる恭介であった。 「ああ..なんかいい匂いする..もうこの布団干さない..」 病的なことを言いながら、聖域と化してしまった自分のベッドを拝むのであった。 しかし、最初が最悪だったにせよ幾らか心を開いてくれているような事はとても嬉しいし なんだかんだ側に居させてもらえる事は幸せの限りであった。 だが彼の異常なまでに自尊心のない言動には違和感を覚え、 転けたまま起き上がれずにいる彼の姿を思い出すと胸が痛んで 恭介はその場で腕を組んだ。 学校のある日はほぼ毎日のように弁当をカロリー高めに作っているのだが、一向に血色が良くなる気配はない。 すぐ貧血を起こしているようだし。 「やっぱり..."アレ"が原因なのかな...」 恭介は呟き、がり、と爪を噛んだ。 先輩は何も言わない、相談すらしてくれない。 それはきっとまだ自分には力不足で、話したって意味がないと思われている証拠なのだ。 それが悔しくも、彼を取り巻く環境に腹が立ち それでも彼に笑って欲しくて、恭介はいつも彼と接する時は心おだやかにいられるように努めているのだけれど。 彼にはきっと隠された何かがある。 そう確信した恭介は暫く思い悩み、 彼のぬくもりが消えつつあるベッドにそっと触れた。 彼が好きすぎるあまり、暴走してしまう自分が思う事ではないのかもしれないけれど もっと笑ってほしい。 学校を休ませるためとはいえまた泣かせてしまったから。 自分にも腹が立つのだがそれ以上に、そこまでして無理をする彼の事がもっと知りたいと思うのであった。 ベッドを見つめ、やがて恭介は我慢出来ずに再び聖域に顔を近づけた。 「...ちょ、ちょっとだけ...ああ...雛瀬先輩ぃぃ...」 ベッドに顔を突っ込み叫ぶ ただの残念なイケメンと化してしまう恭介であった。

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