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第83話 妹
夏休み、太陽の強い日差しと蝉の声。
恭介は硝子が住む住宅街に立っていた。
夏休みに入ってしまい火曜日は無条件で彼に会えるのだが
気がかりなことがあり、あえて出かけていく尊い硝子の後ろ姿を見送った。
恭介はポケットに手を突っ込んだまま、
雛瀬という表札が出た家を睨んでいた。
一見裕福そうな家で、変わった所は何も見受けられない。
しかしどうにも生じる違和感。
硝子が好きで好きで好きすぎて、
毎日のように観察しストーカーし続けていた恭介には
目の前の家と硝子の雰囲気と微妙にズレがある気がしたのだった。
その正体も何かはわからないのだが。
「...あのー....うちになにか...?」
不意に後ろから声をかけられ恭介は振り返った。
黒髪を二つ結びにして、ピンク色のワンピースを着た少女が立っていた。
年齢は13、14...おそらく中学生くらいだろう。
「あー...すみません、ちょっと家を探してて」
恭介は頭を掻きながら愛想のいい笑みを浮かべた。
少女は少しホッとしたように息を吐いてこちらに近寄ってくる。
中学生にしては大人びたワンピースで、かかとの高い靴もそう見えた。
「そうなんですか」
「鈴木さんって人の家なんですけど..」
「ああ、それならこのすぐ近くにありますよ!」
恭介は彼女を観察しながらも、適当にありそうなご近所さんの名前を出した。
勿論全く知り合いでもなんでもない。
彼女はこの雛瀬家を、うち、と言った。ということは兄妹なのだろうか?
彼の家族を見たことは
一度家までつけてきた時に見かけた青年が1人、
兄だろうと予想していたが妹までいたとは。
「よかったら私...案内しましょうか?」
少女はどこかもじもじしながらも上目遣いで恭介を見上げてくる。
青年を見かけた時も思ったが、硝子と兄妹というのがなんだか信じられない。
似てない訳ではないし、言われれば確かにと思うのだが..何故だろう。
「本当?助かるなぁ」
恭介は微笑みを浮かべて、じゃあお願いしようかな、と彼女と目を合わせるように身体を折った。
少女は頬を赤く染めながら、は..はい!、と頷いた。
まあでもこれは、利用できるかもしれない。
そう思いながら彼女と並んで歩くのだった。
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