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第86話 知らぬ間に

火曜日、恒例の新聞作りを終え 恭介が持参したシフォンケーキと共に例によってお茶会が開かれていた。 1週間に一度しか会えない貴重な存在となってしまった硝子は最早会うたびに破壊力を増しているような気がする恭介であった。 「そういえばこれ....」 硝子は何かを思い出したのかカップを置いて鞄を探り始めた。 透明なファイルを取り出すと向かいの席の茶々に手渡している。 「おお!サンキュー!さっすがひなっちゃん仕事が早いなぁ」 嬉々とし受け取っている茶々。 恭介は2人を交互に見た。 なんだ、いつの間に、いつの間に距離が縮まってないか!? そしてそのファイルは一体...。 とてつもなく気になったが恭介は冷静を装い震える手でカップを持ち上げ紅茶を飲んだ。 「今度は何?」 「お料理教室生徒募集」 環先生の質問に、茶々はファイルを見せながら呟いた。 確かにそう書いてあるのが見える。 よくわからない野菜のキャラクターと共に書かれたその字は、まさに硝子の字であった。 「お前...雛瀬先輩に今度は何やらせてんだ...?」 見知らぬところでまた仕事が増えていて怒りに低い声が出てしまう。 「商店街でニューにこにこ新聞が人気で、ポスター頼まれるようになってさー」 「おい...」 新聞だけでなく広告代理店まで! 硝子は複雑そうな顔をして、居心地が悪そうにカップを両手で包み込んでいた。 「俺なんかで....申し訳ないです..」 「何言ってんだよー好評なんだぞひなっちゃん」 「そうですよ!こんな素晴らしく綺麗な文字!」 思わず恭介が褒めると、茶々はニヤリと笑ってファイルをしまった。 自分の知らないところで彼が活躍しているのは 喜ばしいのだがなんだか歯がゆさもあった。 「そうよぉもっと自信持ちなさい硝子君」 知らない間に何故か環先生とも距離が近くなっているような気がする。 頭を撫でられている硝子を見て、ずきんと胸が痛んでしまう。 独占したい、自分だけのものにしたい。 そう思うのは、理不尽だろうか。 恭介は机の下で手を握り締めた。

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