88 / 151

第87話 好きですか?

自分はきっとどこにも行けないし、何にもなれない。 そんな風に決めつけて、暴れる理由にしたかったのかもしれない。 全てのものに苛立って反抗して、それは多分気付いて欲しかったからなのかもしれない。 でもそれは、自分が気付かなければならないことで。 それを気付かせてくれたのは....。 学校から出て、恭介は硝子の少し後ろを歩いていた。 硝子はのろのろと歩きながらもふ、と立ち止まって空を見上げる。 彼の白い頬を見つめながら恭介は奥歯を噛んだ。 先輩の心を手に入れたいと思ってしまう。 彼の瞳にはきっと真っ青な空が映っていて、 そこに自分はいないのだろうけど。 空を見続ける彼を見ていると胸が苦しくて、切なくて 泣いてしまいそうになりながら恭介はやがて俯いた。 閉じ込めてしまいたい。 彼を閉じ込めて自分だけのものにできたら。 それは、きっと、恐ろしいことなのだけれど。 「....いずみくん」 不意に名前を呼ばれ、恭介は顔を上げた。 彼が空を指差している。 しかし恭介はその先を追うことができなかった。 彼が自分を呼び、その視界を共有しようとしてくれていることが たまらなく、たまらなく嬉しくて。 「先輩..っ」 恭介は両手を握り締めた。 彼はこちらをぼけっと振り返り、泣きそうになっている恭介を見つめた。 「俺のこと....好き....ですか....?」 その心が欲しいと、 好きになって欲しいと 思うことは。 硝子は目を見開き、驚いた様子で固まっていた。 暫く2人は黙って向かい合っていたが 恭介は拒絶されることが恐ろしくなってしまい、 やがて苦笑した。 「.....ごめん...、気にしないでください...」 急く心が、 遠くに行ってしまいそうな彼の白い肌を 長い睫毛を、 その見つけられない真意を求めている。

ともだちにシェアしよう!