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第96話 初めての夏祭り

普段硝子の目元は前髪で覆われほぼほぼ目は見えず 辛うじて眼鏡のフレームが見える程度なのだが 今日は前髪が分けられ、その目元がよく見える。 更に長めの髪を後ろでまとめられているから 耳も見えるし、下手したら首筋も見えてしまって 恭介は早速呼吸困難に陥りそうになっていた。 彼と目が合うと、恥ずかしそうに硝子は俯いてしまう。 その度に恭介は語彙力が奪われていくのであった。 商店街に近付くにつれ浴衣姿の子どもたちや家族連れが増えてきた。 昼間に開催される夏祭りなのでカップルよりはファミリーの方が多いのかもしれない。 「夏祭りなんて初めてだし..その、こんな綺麗な服も着たことないから...」 そわそわと腕を撫りながら硝子は呟く。 「俺も数える程度にしか来たことなかったんですけど 雛瀬先輩と来れて嬉しい」 笑顔を向けると彼はぽかんとこちらを見上げ、 すぐまた俯いてしまった。 「.....俺も.....デス....」 「.......。」 え、なにこれ、なにこれ。目の前に大天使いる。 俺死ぬの?死ぬのかな? 「はーいそこのお二人さん」 不意に声がかかり2人は同時に振り向いた。 その瞬間パシャりとシャッターをきられる。 広報担当という腕章をつけた茶々がによによしながら立っていた。 「ちょ...勝手に撮ってんじゃねーよ!」 恭介が慌てて叫ぶと、いやぁん、と茶々はカメラを盾に怯えるふりをした。 「ウチ今日は公式カメラマンだもーん。だから撮り放題」 「お前どこまでコネ広げてんだ...」 腕章を指差しながらピースする茶々に恭介は深いため息を零した。 「じゃ、楽しんでねえ」 「ちょっと待て後で写真ください」 「ええ〜どうしよっかなぁ」 茶々は恭介からひらひらと逃げつつも硝子の肩を叩いて何故かウインクをして行ってしまった。 「なんか生き生きしてるね...」 走っていく後ろ姿を見つめながら硝子は呟いた。 その瞳に自分はどう写っているのだろう、とこんな時まで考えてしまう自分に嫌気が差す。 「行きましょうか」 「...うん」 再び歩き出しながら、 手を繋ぎたい。 そんな衝動を抑えるのに必死な恭介であった。

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