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第97話 わたあめ

商店街は店の前に長机を出し焼きそばやらビールやらが販売され、神社には出店が並び向かいの広場にはステージが設けられダンスやら歌やらが披露されている。 ポスターのお礼としてお祭り大富豪になってしまった二人は 焼き鳥やらかき氷やらをゲットし食べ歩きして 最終的に広場の隅っこのベンチで 電気屋の主人のいい日旅立ちを聞きながら恭介に見守られわたあめに苦戦する硝子であった。 雲のようなわたあめは口に入れた瞬間溶けてしまって こんなに摩訶不思議な食べ物がこの世に存在していたとは。 なんだか恭介と過ごすようになってから初めて知ることばかりである。 ちらりと隣を見るとじとっと真顔でこちらを見ている恭介と目が合い、硝子は思わず下を向くのであった。 「.....いずみくん..俺なんか見てて楽しい..?」 ステージの方を見ればいいのに、と思いながらも聞くと 恭介はにこにこと笑った。 「めちゃくちゃ楽しいです」 「ええ....」 見ててイライラすると言われることの方が多いのだけれど 一体どこに楽しむ要素があるというのだろう。 もしかすると、鈍臭い愚かな姿が面白いのかもしれない。 「なんか、雛瀬先輩は行動がいちいち愛くるしいというか..」 「意味わかんないよ...」 そんな犬猫みたいに言われても、どう反応していいかわからなくなってしまう。 硝子は恥ずかしいような気がして誤魔化すようにわたあめを口に含んだ。 「俺、もっと雛瀬先輩のこと知りたいって思うから こうやって先輩に会う度に、知らない面が見れて、勿体無くて 全部目に焼き付けたいって思っちゃうんですよね」 恭介はそう言いながらそっと硝子の頭を撫でてくる。 その優しい眼差しに硝子は心臓が高鳴って、まともに彼の顔を見れなくなってしまう。 どうして知りたいと思ってくれるのだろう、だなんて考えだすと余計に。 「教えられるほどの事は..なにもないよ…」 なにも持たない自分。 特別なものもなに一つない。 恭介は、んー、と言いながら考えるように空を見上げた。 「好きなものとか嫌いなものとか?」 「......特にこれといって...思い浮かばないです..」 そもそも好き嫌いと選べる立場ではない。 それ故にこんな面白みもなにもない人間になってしまったのだとしたら それは致し方ないことで、こんな自分を気に入ってもらおうなどとすら思っていない。 つまらない、出来損ない。 硝子はぎゅっと口を閉じて奥歯を噛んだ。 「じゃあこれから、作ってけばいいじゃないですか」 「......へ..?」 「そうしましょう。うん。 それで好きなものができたら俺に一番に教えてください」 恭介は妙案を思いついたというように嬉しそうに笑って言った。

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