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第101話 寂しい気持ち
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまい、硝子はたった1日で一生分の思い出を作ってしまった気がした。
綺麗な浴衣を着せてもらい、美味しいものを食べて、たくさん話をした。
「...環先生が、いずみくんは一匹狼みたいだったって言ってたけど、全然そんなことないね」
夕暮れの中を並んで歩きながら、硝子が呟くと
恭介は複雑そうに口を歪めた。
「あー...環ちゃんまた余計なことを...」
「なんか、心配してるみたいだった」
「まぁ、その..入学した時から色々と、世話になってて」
最初は確かに怖い人なのかと思っていたが、今は違う。
恭介は優しくて暖かかくて側にいるとホッとする。
ずっとずっと一緒にいたいような気分になってしまうのだ。
それが本当はいけないことだとわかっていても。
「確かにあの頃は荒れてたけど…俺、気付いたんです。
自分が本当は寂しかったり辛かったりしたのを、誤魔化してたんだなって
そうやって誤魔化すあまり、嬉しいとか楽しいって気持ちも忘れそうになってた。
心が、凍ってたみたいに
でも先輩に会って、別に寂しいとか思う気持ちって悪いものじゃないんだなって思ったんです。
それだけ先輩が好きってことで、その分会えた時嬉しいから。
まあ毎日会いたいですけどね!」
恭介はそう言って微笑んで、
その笑顔を見ているとまた胸が苦しくなる。
「...どうして俺.....?」
「んー...、上手く言えないけど…雛瀬先輩が寂しそうだったから...かなぁ
だから側にいたいというか…
幸せにしたいなって思ったというか…」
寂しい、なんて思ったことはなかった。
ずっと一人でいなければならなかったから。
そんなことを感じるのは、1人ではない人。
気付けば鳩時計の広場へ来ていて、二人は立ち止まった。
「雛瀬先輩また誘ってもいいですか?..俺、先輩といろんなとこに行きたいです
もっと先輩と一緒にいたい」
硝子はじっと彼を見つめた。
彼といるのは楽しくて、彼だけでなく茶々や環先生との時間もとても素敵なもので
だけれどそれは、本当はあってはならないものなのだ。
不意に金切り声が脳裏に再生される。
目立つな、笑うな、お前のような人間が....。
「....雛瀬先輩?」
恭介が顔を覗き込んでくる。
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