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第103話 出来損ない

「.......先輩は、それでいいの? 先輩がどうしたいかじゃないの?」 恭介が震える声で呟いた。 「俺といるのは.......嫌、ですか....?」 彼が泣きそうなのが、 自分が傷付けたからだと自覚してしまった硝子は ふらふらと後退りする。 「違う...いずみくんが、悪いんじゃない... 俺が.....俺が悪いから....」 「先輩は何も悪くないだろ…? ねえ…雛瀬先輩…俺に教えてもらえませんか…? 先輩が抱えてるものを俺に預けて…、っ…一緒に…」 恭介に腕を掴まれ、必死な目をされた。 瞬時に硝子の体は恐怖で支配され、彼の腕を跳ね除けたのだった。 「........ッ」 どうしたいか、なんてわからなくてよかったのに。 死ぬこともできず、生きることも1人ではままならない。 好きなものも嫌いなものも作れない 出来損ない、だから。 それなのに、傲慢にも 嫌われたくない、と思ってしまった。 「.....すみ、ません...っ」 硝子は彼に背を向けて走り出した。 怖くて怖くて、ひたすら胸が痛くて。 優しさを知らないから 与えてもらうばかりで、優しさを返すことができない。 こんな風に傷付けて関わらないようにすることが 最大の優しさ。 出来損ないなのに、部不相応の望みを抱いてしまった結果、 なのかもしれなかった。 だって すみません、いずみくん。 俺は多分、あなたが好きです。 俺はあなたに笑っていて欲しいのです。 あなたはとても優しくて 自分なんかのためにお弁当を作ってくれて 本当は家だって全然、近くなんかなくて逆方向なのに。 どうしてあなたはそんなに俺に優しいんですか? どうしてあなたは俺のことを知ろうとしてくれるんですか? 俺は出来損ないなのに。 出来損ないなのに、あなたが、 あんまりに真っ直ぐに、 愛してくれるから、 好きになって、しまった。 「いいこと、硝子 あなたが出来損ないなのにはちゃんと理由があるのよ」 もっと自分が誇れる人間であったなら 胸を張ってあなたの隣にいれたのでしょうか。

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