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第104話 美しさ

.....清子の字だ。 真一は町内の掲示板に貼られた夏祭りと書かれたポスターの前で立ち止まってしまった。 その美しく整った文字は、 かつて彼女が寄越した手紙の文字によく似ていた。 しかし彼女がこんなものを書くわけがない。 作成:石動高校新聞部、と一番下に記されていたから 確信めいて、真一は笑ってしまった。 「...あの子か」 彼は、清子が無くしたものを全て持っている。 かつて真一が愛した清子の全てを。 この美しい文字も、澄んだ瞳も。 彼がいなければ、彼女は今でもあの頃のままだったのだろうか。 真一は不意に虚しくなって、奥歯を噛み締めて再び帰路に着いた。 夏祭りは今日あっていたらしく、その帰りの人々が笑顔を浮かべて歩いていく。 親子、友達、恋人。 そのどれもが偽りのない関係で、幸福で。 かつては自分たちもあの群れに混ざって歩いていた。 誰かを殺したいと口に出すなど考えたこともなく 恨む気持ちもまだ、幼稚で制御ができた。 壊れてしまったのは何故なのだろう。 何故清子だったのだろう。 「うえええん!」 不意に少女の泣き声が響き渡った。 反射的にそちらに顔を向けると、5歳ほどの少女が泣いている。 迷子にでもなったのだろうか。 すると近くを歩いていた浴衣姿の少年が立ち止まった。 「...ど、どうしたの?」 彼は身をかがめ少女に声をかけている。 しなやかな黒髪を一つにまとめ、ピカピカの眼鏡をかけていて その頬は白く美しかった。 真一は思わず目を奪われ、彼に釘付けになる。 「おかぁさんがああ」 「迷子ですかね..?」 「うん..」 「ぶええええん」 「な、泣かないで..大丈夫だよ..」 泣き止まない少女に焦りながらも背を撫でてやっている その細く長い指先も、浴衣から覗く足首も 動きの一つ一つが、鼓動を早めてしまう、時間を止めてしまう。 脳裏に焼き付いて、焦がれるように。 「.......硝子...」

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