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第106話 意味

図書室はお盆休みで、環先生も当然不在であった。 仕方なく硝子は浴衣については二学期になってから返すことにした。 猛暑日が続いたが 硝子は日中も部屋の中にこもるようになった。 茶々が何度か訪ねてくれたが、硝子は不在です、と母が追い返し 彼との関係性を問い正され、ネチネチと嫌味を言われた。 石動高校なんて底辺校に通う生徒なんてみんな不良に決まっていると彼女が言うから つい硝子は、茶々くんはそんな人ではない、と言い返してしまった。 案の定母親は激昂し、父が止めるのも聞かず硝子に物を投げつけて怒った。 それは当然のことだし、こんな風に言い返してしまえる自分になった事が申し訳なかった。 仲良くしてくれた茶々達には感謝してもしきれないから 悪く言われるのは耐えられない でも母親に口答えしてしまうのもとても辛くて。 自分が関わるから、そもそもいけないのだ。 自分がいなければ彼らのことを母親が悪くいうこともなくなるし それに反抗することもなくなる。 もっと早く彼らと離れてしまわなくてはならなかった、と後悔して 夜も寝付けず、ぼんやりと小窓を見上げるのだった。 自分は誰とも仲良くしてはいけない。 最初から分かっていたことではないか。 こうなるって、分かってたはずなのに...。 「.....硝子」 不意に声が聞こえ、硝子は顔をドアの方へ向けた。 暗い廊下から誰かがこちらを覗き込んでいる。 こんな時間にどうしたのだろう。 硝子は夢なのか現実なのか区別がつかず、ぼけっとその人影を見上げてしまう。 彼は無言で部屋に入ってきて、月明かりに照らされたその顔は真一であった。 壁にもたれて三角座りをしていた硝子は その顔を見て思わず背筋を伸ばし、正座をする。 「怪我はしていないかい?見せてごらん」 「...え..あ、大丈夫...です..」 彼がこの部屋にくる事は、初めてかもしれなかった。 ドキドキしながら彼を見上げると真一は小さく微笑み 硝子の頬に触れた。 「僕たちは人殺しになりたいわけじゃないからね」 「....はい」 硝子は静かに返事をした。 こんな風に彼が怪我を心配して部屋までわざわざ来たことなどあっただろうか。 妙な心地になりながらも大人しくじっとしていた。 「...硝子は幾つになった?」 「え...?..えっと...17歳です」 「そうか。ならもう、意味がわかるね」 真一はいつも通り、穏やかな笑顔を浮かべていた。 狂気を孕んで、喉元に噛み付かれそうな殺気がこもった、笑顔。 暑いはずなのに寒気がして硝子はガタガタと震えた。

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