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第110話 生きる意味
図書室はシーンと静まり返っていた。
いつもはぎゃあぎゃあ騒ぐ2人だったが、茶々も恭介も神妙な顔で俯いていた。
「...こないね....」
痺れを切らした茶々が呟くと、恭介は舌打ちで返事を返した。
椅子から立ち上がり、出口に向かって歩き出す。
「いずみん..どこいくんだよ」
「雛瀬先輩が来ないならここにいても意味ない」
吐き捨てるように言って足早にドアに近付くが、
茶々に追いつかれ腕を掴まれてしまう。
夏祭りの帰りに、彼が走り去ってからというもの硝子の姿は誰も見ていなかった。
家に何度言っても追い返され、茶々は清一から遠巻きにもう関わらないでやってくれというようなことを言われていたのだ。
だが見るからにただの怖いヤンキーに成り下がっている恭介にそれを伝えることができずにいた。
夏休み終了まで残り2週間。
新聞部は自然消滅の危機に陥っていた。
「風邪でも引いたんじゃん..多分、な、絶対そうだって...」
茶々は笑いながらそう言うと恭介は乱暴に腕を振りほどきこちらを振り返った。
目に涙を浮かべた彼はいまにも殴りかかってきそうに茶々の胸ぐらを掴んだ。
「先輩は、俺を避けてる....ッ!」
悲痛な声で恭介は叫び、やがてぽろぽろと彼の目から涙がこぼれた。
「俺...嫌われたのかな?
先輩に嫌われたら、俺は、生きていけない...
雛瀬先輩に会えないなら生きている意味もない」
「...いずみん..」
恭介は茶々から手を離し背を向けて涙を乱暴に拭っていた。
恭介の背中を見つめ、茶々はかしかしと頭を掻いた。
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