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第111話 幸せの理由
「...いずみんは、いつも頼んでもないのに
弁当作ってきたりケーキ焼いたりってお節介で過干渉で世話焼きだろ
でも、多分...ひなっちゃんは、それ..嬉しかったんだと思う。」
茶々はそう言いながら、震えているその背中に拳をぶつけた。
「ひなっちゃんはいつも、教室にいるとき誰とも喋んないし
ぼけっと外見てて、何考えてるのかわかんなくて正直不気味だった。
でもいずみんと弁当食べてるとこ見て、思わずシャッターきった。
あ。この子こんな幸せそーな顔できんだなってなんかホッとした。
…だから声かけた。
ひなっちゃんが、いずみんのこと嫌いなわけないじゃん
なんで出てこないのかはわかんないけど、絶対そうだよ…っ」
ぎゅっと手を握りしめると、恭介はゆっくりと振り返った。
潤んで赤くなった瞳でこちらを睨んでくる恭介に
茶々は制服のポケットから一枚の紙を取り出した。
「好きでもない人にこんな顔しないだろ…っ」
彼にそれを押し付けると、恭介はおそるおそる紙に目を落とした。
それは、悔しくも自分史上最高に良く撮れた写真
だが、スキャンダルでも決定的瞬間でもない、
ただの何気ない風景なのだけれど。
「雛、瀬先輩....」
恭介はぼろぼろと泣きながら写真を見つめていた。
その顔を見ながら茶々はなんとも言えない気分になって
もらい泣きしそうになるのを必死に耐えていた。
2人は心底想い合っている、それが痛いほど伝わってくるから。
「....ちょっとツンツンされたくらいで嫌われた〜とか乙女かっつーの」
耐えかねた茶々はいつも通りの口調で笑いながら彼に背を向けた。
「まあ、なんか、ひなっちゃんが戻ってくるよう頑張ろーぜ。
新聞できないと困るし!」
さっさと泣き止めという気分で叫ぶと、不意に体が暖かなものに包まれて
茶々は目を見開いた。
「へ....」
「ありがとう...っ、茶々」
耳元で泣いている声が聞こえ、後ろから抱きつかれたのだと分かると頭の中が真っ白になった。
すぐに彼は離れ、バタバタと走って行ってしまったのだが
その出来事に、茶々は呆然と立ち尽くした。
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