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第114話 妹君

雛瀬先輩、あなたの眼には今何が映っていますか? 俺には到底見ることのできない美しいものでしょうか。 空を自由に舞う鳩。 いつから俺は、あなたと幸せになりたいなどと そんな願いを抱くようになったのだろう。 「....雛瀬先輩......」 恭介はいつも硝子の背中を見送る住宅街の入り口に立っていた。 通る人が目を逸らすほど凄まじい形相であったが、恭介の頭の中は硝子で埋め尽くされている。 「恭介さん!」 黒髪を二つ結びにした少女真姫が、笑顔でこちらに走ってくる。 相変わらず少し大人っぽい水色のワンピースを着ていて、心なしか唇がピンクに染まっていた。 恭介はふっと表情を変え、片手をあげて微笑みを浮かべた。 「遅くなっちゃった」 「待つの嫌いじゃないから。いいじゃんそのワンピース」 褒めると真姫は嬉しそうにはにかんだ。 あれから恭介は彼女と連絡先を交換していたのだった。 「本当にお邪魔していいの?」 「うん。今日、誰もいないから」 中学生の危機感のなさに呆れながらも その扱いやすさには助かっている。 こうしてすんなり、硝子の家に上り込むことが出来るのだから。 しかし誰もいないとはどういう事だろう、先輩は今日は出かけていないはず... しかし彼の靴もどこにも見当たらないのだった。 家の中は、想像していた通り掃除が行き届いた美しい家だった。 玄関も壁にセンスの良い絵がかけてあるだけで余計なものは何もない。 廊下はピカピカのフローリングが続いている。 「...お邪魔します」 「どうぞどうぞ」 真姫は嬉しそうに先に上がり、ドタバタと階段を上がって行く。 恭介もそれに続いた。 階段も綺麗に掃除され、途中で小窓を見つけた。 二階に辿りつくと、同じ大きさのドアが二つ並んでいる。 「ここが真姫の部屋!ちょっと散らかってるかも」 彼女はそう言って、真姫のお部屋というプレートが下がったドアを開けた。 中は目眩がするようなピンク色の部屋で、まさに愛されている少女の象徴のような部屋であった。 ファンシーなクッション、可愛らしいぬいぐるみ群、 ベッドの布団に至っては凄まじい色合いだ。 ふかふかのカーペットの上に何かのキャラクターの絵がついたテーブルが置かれている。 促されるまま恭介はそこに座らされた。 「....可愛い部屋だね。なんていうか、真姫ちゃんらしい..」 こればっかりは苦笑してしまいながらもコメントすると 彼女は褒められたと思ったのか、えへへ、と嬉しそうに笑った。 硝子の妹というから、もっと素朴な感じかと思いきや 女とはみんなこうキラキラふあふあしたものが好きなのだろうか。 「ジュース持ってくるね!」 彼女はそう言うとバタバタとまた部屋を出ていってしまった。

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