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第115話 家宅捜査
少しは落ち着けないのかと思うが、そわそわ浮き足立つ気持ちもわからないではない。
恭介は、はぁ、と息を吐いてこんな所にいても仕方ないので速攻で部屋を出た。
外から眺めているだけでは詳細がわからないから、手探りしかない。
廊下に出て、隣の何も書かれていない方の部屋のドアを開けた。
顔を突っ込んで中を覗くと
シンプルな机やベッドが置かれたスタイリッシュな部屋だった。
ここも硝子の部屋とは違いそうだ。
中に入って確認すると本棚には難しそうな参考書が並んでいて、恐らく兄の部屋だろうと推測しさっさと出た。
二階には突き当たりに物置らしき引き戸が見えるくらいで他に部屋は見当たらなかった。
彼の部屋は一階なのだろうか?
大声で叫んで彼を呼びたかった。
「....どこにいるんだよ...雛瀬先輩....っ」
ふ、と嫌な予感がして恭介は引き戸へと手を伸ばした、
しかしバタバタと足音が聞こえたので恭介は仕方なく真姫の部屋に戻った。
「おまたせしました!」
何事もなかったような顔で座りなおすと、真姫がドアを開けて入ってきた。
水玉模様のトレーの上にオレンジジュースが入ったコップが二つと、お菓子の乗った皿。
「ありがとう」
恭介はそれを持ってやり、机に置いてやった。
彼女は向かいに座り、どこかそわそわしながらコップを両手で持っている。
「....いい家だね。」
「えっ?」
「ああ、いや俺さ..実は建築系目指してて人の家とかつい見ちゃうんだよね。間取りとか素材とか」
嘘八百並べながらも天井を指差したりしてそれっぽい仕草をすると
真姫は目を輝かせる。
「建築!?すごーい!かっこいい!」
彼女はそう言って身を乗り出すように聞いてくる。
「この家結構新しいよね」
「うん。真姫が産まれた時くらいに建てたんだってー」
彼女の証言に恭介は引っかかりを覚えたが顔に出さず
興味ありげに、へえー、と答えた。
「お父さん結構お金持ちだったりする?」
冗談めかして聞くと真姫は、そんなことないよう、と笑った。
「お医者さんなの。お母さんはー秘書!かっこいいでしょ」
「へえすごいね。確かお兄さんもいたよね?」
「うん!お兄ちゃんはーT大なんだー」
「え、めっちゃ頭いいじゃん。エリートだなぁ」
「そんなことないよー真姫は頭悪いしぃ」
彼女はそう言って机に頬杖をつくように楽しそうに家族の話をした。
.....雛瀬先輩..は?
恭介が一番聞きたい人物の話が出てこない。
「えっと...そういえばうちの高校の2年に雛瀬って苗字の先輩いてさ
その人がお兄さんなのかと思ってたんだけど」
思い切って聞いて見ると、真姫はぴくりと表情を固め
不機嫌そうに俯くのをジュースを飲んでごまかしていた。
しかしコップから口を離すと満面の笑みを浮かべる。
「誰?真姫その人知らなーい」
彼女の言葉に恭介は机の下で両手を握り締めた。
知らないわけ、ない。
この家に彼が入って行くのを何度も見ている、間違いはないのだ。
「もしよかったら下も見せてあげようか?お母さん達の部屋はダメだけど...
お庭もあるんだよ!」
真姫は誤魔化すようにそう言って立ち上がった。
「マジで?やったね」
恭介は自分の怒りが表に出ないように取り繕い、
彼女に続いて立ち上がったのだった。
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