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第120話 お兄様は見た

ぱたりと閉じられた物置部屋の中は暗く、暑く、 ズキズキと身体中が痛くて、 それはなぜかとても耐えられそうにないほど重くのしかかり、横になると動くことができないのだった。 これは罰。報いだ。 真一や清子の苦しみを自分は受ける義務がある。 だから、恭介の優しいキスなどを思い出してはいけないのに。 硝子は自分の唇に触れて、ふふ、と笑ってしまうのだった。 きっとどんな大罪人にも素敵な思い出はあって それさえあれば生きていけるのだ。 すみません、いずみくん。 あなたが触れてくれたから、俺は今、 壊れてしまわず、罰を受けていられるのかもしれない。 そう思うと不思議と気持ちが楽になる。 仰向けになると、パラパラと薄暗い天井から赤い花びらが降ってきた。 花びらは降り積もり、硝子はそれに埋もれながら思った。 例えあなたが俺と出会ったことを悔いても 俺はあなたと出会ったことを誇りにしていくのだろうと。 だからどうか泣かないで、いずみくん。 真っ暗な部屋にそっと一筋の光が差し込んで、 誰かの気配を残しすぐにまた消えた。 壊れてしまっていたのはいつからだったのだろう。 平穏な家族と思っていたものは、最初からなかったのかもしれない。 夜中の商店街を、清一は口元を抑えながら歩いていた。 居たたまれなくなって思わず家を飛び出して来てしまったが どこに行けばいいのかも、何をすればいいのかもわからない。 自分の気持ちの整理もできない。 悲しんでいいのか怒っていいのか、ただ絶望だった。 商店街の角にあるコンビニに来たところで清一は二度目の折り返しで今来た道を振り返った。 どうしよう。ただその一言に尽きる。 再び歩き出そうとするとコンビニのドアがけたたましい音楽とともに開いた。 そこから出て来た人物は、熱帯夜だというのに長袖のパーカーを羽織っている少年で 「...清様、何してんの」 苦笑気味に笑うと彼は清一に近付いてくる。 赤川茶々。 見知った顔に清一はおもわず泣きそうなほど安堵してしまうのだった。 「さっきから見てたけどうろうろしてて超不審者なんですけど」 「..あ、ああ...君か...」 「なんか具合でも悪い?」 茶々は面白そうに笑ってたかと思うとジッと観察するような鋭い目つきで見つめてくる。 清一は何を言っていいのかわからず吐きそうになりながら口元を再び抑えて俯いた。 「いや....」 「なになに?酔ってんの?」 「ちが..」 ぎこちなく首を振るが、茶々は呆れたように清一の背に手を置いて歩き出した。 押されるように歩き出しながら、酔っているのかもしれないとどこか思った。 硝子の、声が、耳から離れない。 まるで呪いのように。

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