122 / 151

第121話 弟のこと

「あー、いやさ、なんでウチがここにいるかっていうとぉ ここんところ商店街で話題の結婚詐欺師がいてさ そいつをちょっと張り込んでたらこんな時間になっちゃって やっべーみたいな。未成年だから補導寸前だよね」 茶々は1人でペラペラ喋り、そんな彼に押されるままに歩き 気付けば神社まで来ていて 両肩を押されながら道路との仕切りの柵に座らせられると、彼は小首を傾げた。 「で?どうしたん」 清一は思わず涙腺が緩んで、涙目になりながらも両手で顔を覆った。 「...っ、もう、どうしたらいいか...」 「落ち着けって...また変な女にでも引っかかったの?」 茶々の言葉に変な女に引っかかった覚えはなかったが、 今はそれどころではなく、ただ首を横に振った。 「硝子が..」 「え?」 言いかけて口を閉じる。 彼は硝子の、友達で年下の少年で。 一体何を言おうとしたのか。 しかし笑って誤魔化せるほど今は余裕がない。 清一は俯いたまま黙りこくって、ただ顔を覆い続けていた。 物心ついた時から、硝子の扱いが粗雑だったのは 当たり前のことだった。 両親は硝子を出来損ない扱いし、それを責めることを良しとし 時には悪者のように嘆き散らかし罵った。 真姫が産まれてからそれは顕著で、幼く純粋な妹はなんの疑いもなく両親を真似て硝子を毛嫌いしている。 自分は、なんとなく流れに乗ってしまっているものの まだ彼が小さい時、"普通の家族"だった僅かな記憶が顔を覗かせて その度に彼が少し哀れに思えてしまうのだった。 事情も知っているし、それが誰も悪くないことはわかっているのだけれど。 でも...。 「..あー...えっとさぁ、なんとなく複雑な事情があるんだろなーって思うんだけど もし清様が、話してくれるっていうなら.. 会って欲しい奴がいるんだけど...」 茶々が途切れ途切れに言葉を紡ぎ、清一はそっと顔を上げた。 彼は困ったように笑っていて、柵には座らず地面にしゃがみ込んだ。 「そいつさーひなっちゃんのことめっちゃめちゃ大好きでさ でも最近避けられてるとか言ってスゲー落ち込んでて... ウチも会えなくて寂しいし、もし清様が今悩んでんのとひなっちゃんが出てこないの関係あるなら」 茶々はそう言って、んー、と悩むように額に片手を当てて考えている。

ともだちにシェアしよう!