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第130話 煙の正体
遠くに見えていた煙が近付いては離れる。
ずっと走っているのに不思議と疲れてはいなかった。
雲の上をかけているようで身体が軽くて、
視界は素晴らしく澄み渡っていた。
ずらりと両脇に花が並び、まるで煙までの道を作っているようだった。
硝子はそこを爽快な気持ちで走り抜ける。
ちらちらと雪が舞い、あべこべな季節感は幻想的で美しかった。
気付けば高く見えていた煙が目の前に現れて、
硝子はもくもくと昇る灰色の煙の根元を見下ろした。
溶岩のような物があるのかと思ったが、
下に行くにつれ煙は灰色から白へと変わっていて
わたあめみたいな美しい純白に、硝子は思わず微笑んでしまった。
なんて綺麗なんだろう。
こんなに綺麗だとは思わなかった。
その中に飛び込んだらきっとふわふわで、気持ちがいいんだろうな。
不意にそんなことを思っていると目の前に階段が現れた。
階段は螺旋状に煙の中へと伸びていて
下りていけば煙の出所まで行けそうだった。
硝子は迷うことなく一歩足を踏み出した。
「硝子...ッ!!!」
がくんと身体が傾き、硝子は目を見開いた。
煙は消え、灰色の道路が遥か下に走っていて
たくさんの車が行き交っている様子がぼやけた視界の中で見えた。
雪が散っていたはずなのに、太陽がジリジリと照り付けていて
遥か下の景色が歪んで見える。
片腕を何かに引っ張られているようで、半分落ちかけた身体を引き戻される。
「っ……はぁ…先輩..…怒れないよ…俺には……っ
でも…行っちゃ駄目だ……絶対に……それだけは…!」
体を支えられなくなりその場に崩れ落ちるように座り込んだ。
「……俺、なにも知らなくて酷いことした..
でも俺は、雛瀬先輩の事が好きで、大事な気持ちは嘘じゃない。
先輩が嫌がることはもう絶対にしないし..俺にできることならなんでもする…」
ぎゅっと誰かに抱き締められて、硝子は酷く体が痛くて重くて
息がうまく吸えない事に気付いて、太陽に溶かされそうになりながら後ろにいる誰かに体重を預けるように倒れこんだ。
「..っだから、生きているのが苦しいのなら
俺に預けてください...っ、俺、は先輩のために
先輩のためだけに生きるから...!
だからこんな、こと....っ」
倒れこみ、肩を抱かれるような体勢になると
ようやくその誰かの顔が見えた。
その人物からは白い光がふわふわと立ち上っていって、
それは太陽に照らされキラキラと光っていた。
その美しい光景に見惚れながら、硝子は手を伸ばした。
「そ....っか.......いずみ、くん.....だったんだね....」
「...え...?」
煙ではなかったんだ。空へと昇っていたのは
光の柱だったんだ。
その出所は、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった伊積恭介だった。
硝子は、ふふ、と微笑んで彼の頬に触れた。
「きれい.....」
彼の温度に包まれて、硝子はそのままふっと意識を手放した。
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