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第131話 白い地獄

硝子の体は、以前にも増して細く痩せ でたらめにとめられたボタンの隙間からは、痣のように赤黒く付けられた痕が見えていた。 真夏だというのに恐ろしく冷たくて、何もしなくても消えていきそうで怖かったから 恭介は半ば強引に彼から引き剥がされ、 今は病院の廊下に座らされていた。 待っている間は時間が経つのが遅くて何度も壁を殴りそうになり、 それを押しとどめて両手を握り締め、閉められた白いドアを睨んでいた。 あんな状態になるまで、何もできなかった自分が悔しくて 何に対して怒っていいのかもわからなかった。 バタバタと誰かが廊下を走ってきて、恭介は顔を上げた。 蒼白した清一と茶々だった。 「...硝子...硝子は....」 「今診てもらってる」 「そうか...」 清一は何度か頷きながらも、恭介の隣に腰を下ろした。 「僕がもっと...早く気付いていれば…」 ぼそりと清一は呟いて、泣きそうな顔で俯いた。 閉ざされたドアをジッと見つめる。 1人で戦っていたんだろうか、ずっと、誰にも言わずに。 戦っている意識もなかったのかもしれない。 助けたいとか言っておきながら何もできなかった。 「..先輩、屋上から飛び降りようとしてた」 「....え」 「家の事情とか、心情とか 俺が意見を言える立場ではないと思うから、 誰を責めようとかは思ってません。 先輩が死のうとしたことも全然飯食ってないことも 狭い部屋に押し込められてることも、 俺は、本当は怒ってるけど、今まで先輩が俺に隠してたんなら、俺に言わなかったんなら、 俺には口出しするなってことだろうから!」 恭介は思わず怒鳴ってしまい、手が出そうな自分を必死に押さえつけながら ふー、と息を吐いた。

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