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第140話 あたしが。

硝子のいなくなった狭い物置部屋は、閑散としていた。 彼が使っていたお下がりのボロボロの毛布と、二段ボックス。 入っていたものはなくなり、高1の時彼が使っていたであろう教科書が寂しげに残っていた。 真一は傾いたまま放置されている教科書を手に取り、 パラパラとめくった。 寂しい?悲しい?..悔しい? なんともいえぬ感情に支配されて、それでも理性が立ちはだかり 泣いていいのか怒っていいのかもわからなかった。 「出ていく...ですって?」 清子は硝子の言葉を繰り返し、わなわなと震えた。 しかし彼女はなぜか微笑んで硝子の肩に触れる。 「勝手に何言ってるの?出て行ってどうするの? あんたの家はここなのよ! 今まで育ててやった恩を仇で返すつもりなの?」 「...俺みたいなのを、育ててくれた事には感謝します。 だから、あなたの悲しむ姿、苦しむ姿をもう見たくないんです 俺がいたら、目障りでしょう?」 硝子は人が違えたようにハキハキと物を申した。 いつかこんな日が来ることは、わかっていたはずなのに。 清子は彼の肩に指を食い込ませるように強く掴んで、壊れたように叫んだ。 「ああああああああ!!!!!ふざけんな!!!! 誰が産んだと思ってる!!!!あたしが! あたしがあたしがあたしがあたしが!!!!!!!」 叫ぶ彼女に、真姫は怯えたように泣きながら縮こまり 慌てて清一が硝子と彼女を引き離して硝子を守った。 「ママ落ち着いて」 「あんたもそいつに誑かされたの!!!!? そいつの何がいいのよ!!! こんなグズの出来損ない!なんの役にも立たない! この家から出たってどうせすぐ死ぬくせに!!!! 死ぬくせに!!!あたしが!!!」 守ってあげないと。 清子は弱々しくその言葉を呟いて、 家の中はしんと静まり返った。

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