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第143話 教えてあげるね
昼休み、恭介とお弁当を食べて
放課後は新聞を作って、環先生や茶々とお喋りして
恭介と同じ道を帰る。
そんな毎日が、キラキラ光っているように眩しくて
時々自分の烏滸がましさに恐怖するのだけれど
でも、側に居たいと何より強く思える。
「んー今日夕飯なんにしようかなぁ」
恭介はそう言いながら考えるように空を見上げた。
その横顔を盗み見て、硝子は心臓が高鳴るのを感じた。
「あ..あの...いずみくん」
「はい?」
「あのね、前…好きなもの....できたら教えてって言ったでしょ」
「はぁ、そういえば言いましたっけね」
恭介は不思議そうな顔で首を傾けていた。
伝えなくては。
もしかしたら自分がこんなことを言うのは間違っていることなのかもしれない。
でも、彼に知ってほしい。もう隠し事はしたくなかった。
硝子は両手を握り締めて深呼吸し、彼を見上げた。
「....俺、いずみくんが好きです」
硝子は泣き出しそうになりながら静かにそう伝えた。
恭介は驚いたように目を見開き固まっていて
なんだか居た堪れずに俯いた。
「あ..あの..今はどうかわからないけど...
俺のこと好きって言ってくれて、ありがとう...」
もしかしたらもう彼は自分のことを好きじゃないかもしれない。
肯定されるべき人間じゃないことを知って、心が離れているのかもしれない。
そう思うと悲しいけれど、硝子は自分の気持ちを伝えられてそれだけで満足だった。
顔が熱くて、恥ずかしくて死にそうだったが
硝子はそわそわと両手を組んで、そ...それだけ、と呟いた。
「雛瀬先輩...」
震える声で名前を呼ばれ、顔を上げると
恭介は目を見開いたまま涙を流していた。
「ええ...す、すみません...やっぱり迷惑...だよね...気持ち悪いよね...」
「ち、が、ちがいっ、ちがうっ!」
嗚咽しながら言葉を紡ぐ恭介に、硝子は慌てて彼の背中を撫でてやった。
「俺、俺も好き、ずっと好きです先輩」
肩を震わせながら泣きながらもなお、そう言葉は紡がれ
硝子はとても幸せな気持ちになりながら、うん、と頷いた。
ずっとずっと、自分はこの人の気持ちを蔑ろにしていたのかもしれない。
自分の気持ちも。
「........ありがとう…」
硝子は彼の背中を撫でながら、彼に顔を寄せて呟いた。
誰かに気持ちを伝えることが、こんなにそわそわして
嬉しいことだとは思わなかった。
微笑みながら彼を見上げると、恭介の瞳からさらに涙が溢れてくる。
「うわぁあぁあぁぁあん」
「ひっ..ちょ、いずみくん泣き止んで..」
路上で大号泣し始める恭介に、
どうしていいかわからずわたわたと焦る硝子であった...。
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