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第145話 綺麗
恭介は恐る恐る彼を振り返った。
眼鏡の向こうの瞳を彷徨わせながら、硝子の頬は赤く染まっていて
震える手が服の裾をぎゅっと掴んでいて。
鼻血が噴射しそうだった。
「.....何言ってるかわかってるんですか...?」
硝子は静かに頷いた。
泣きそうなのを堪えているかのように寄せられた眉と潤んだ瞳に恭介は思わず膝から崩れ落ちた。
おお、神よ...。
硝子は不安げにこちらを見下ろして、そっと恭介の髪に触れた。
「..でも...俺、その....他の人に、触られた..から
気持ち悪い....よね...?」
父に犯されている。清一の言葉がよぎった。
それがどんな心情なのかはわからない。
血が繋がっていないとはいえ、産まれた時から育ててきた息子を..。
そしてそれを受け止めていた、硝子は...。
彼が誰かに穢されたのは、正直とても怒っている。
だけれど震えている彼を見ていると胸が痛んで。
「…雛瀬先輩は、綺麗だよ」
恭介は彼の腕を掴んで、引き寄せた。
一緒に床に座り込むと、硝子を抱き締める。
自分が出来ることは今傷付いている彼に寄り添ってあげることだ。
「辛かったね」
「.....っ、...」
「助けてあげれなくて、ごめんね....
俺いつも...いつも、遅くて...何もできなくて....本当にごめん」
硝子は首を横に振りながら、背中に腕を回され
しがみ付かれる。
こんなに細くて、壊れてしまいそうな身体で
強大な憎悪を受け止めていただなんて。
「いずみくんは、悪くないよ
それに、...助けられてたよ、ずっと...いずみくんが居たから...
ずっと心にいたから....」
泣きじゃくって、震える声で硝子は呟いた。
彼の心の中に自分がいる。
恭介は彼が愛おしくてたまらなくて、自分でも説明できないほど押し寄せる感情に
めちゃくちゃに抱き締めて唇を奪った。
「雛瀬先輩....」
深く深く口付けて、舌を絡めて、唾液も吐息も全て飲み込んでしまいたくて。
「ん、..っ、ん".....ッ」
彼は苦しそうな声を出すが、
恭介は止められず強く抱き締めながら貪った。
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