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第20話

「おいで」  純平の脇に手をいれて、やや強引にベッドにひきあげた。 「でも、あ」 「一緒にしよう」  純平を横向きに寝かせて、自分はその足のほうに頭を寄せた。初夜でこんな行為に及ぶのはどうかとは思ったが、とにかくこれでお互いに愛撫できる。  さっきまでの奉仕を返すように、大介は純平の股間に吸いついた。純平は大介のそれより細く、すでに濡れていた。初めてで勝手はわからないが、さっきの純平のテクニックを思いだして、一生懸命くわえ、唇をすぼめてしごき、先の割れ目を舌で舐めた。 「あ、だめっ。大介さん、そんなこと、しないで」  純平が泣きそうな声をあげ、それがうわずり、だんだんと喘ぐ声に変わっていく。 「しないで、あ、ああっ。僕、よくなっちゃう、よくなっちゃうっ」  純平は腰をくねらせながら、片腕を噛んだ。 「声、聞かせろ、純平」  一度口を離して、体を起こし、腕をどけさせる。純平の目はとろんとしてうるんでいた。 「やだ。いやらしい顔、みないで」 「見る。セックスは目でも耳でもするものだよ」  説得の間も大介は手で攻め続けた。もう反り返るほどに硬くなったペニスの皮をずらし、あらわになった裏筋の部分に指を添える。 「んんっ」  純平はうちあげられた魚のように大きくはねた。連動するように、大介の手の中のものが大きく脈動して、先走りが飛び散った。 「ああ、出る、出ちゃう」  まだ顎をあげたままの純平の瞳に、涙の膜が張っていた。純平が迫り来る絶頂感を逃すように荒い呼吸をすると、サイドテーブルのあかりを映した瞳の光がゆらゆらと揺れた。 「泣かないで。大丈夫、純平は可愛いから」 「や、あ、っ。こんなの、可愛くない、あっ、こんな声も」 「ちゃんと声もきかせて。純平の声が聞きたい」  大介は汚れていないほうの手でその頬をなでた。純平はその間ももだえるように身をくねらせていた。愛撫をやめると、腰が勝手に動くのだ。口では「いやだ」というのに、体のほうは性感に従順になっているようだった。大介にもっともっと愛してもらいたがっているような気がした。 「やだ、僕もする、一緒に」  はあ、はあ、と息をつきながら、なんとか顔を起こして大介のそこへまた口をつけようとした。下まぶたのふちにもりあがった涙が決壊して、純平の頬に白い筋ができた。  純平は水の中にもぐるときのように一度息を吸い、深くまでくわえこんだ。大介は先の敏感な部分が熱い喉をこする感覚に低くうめいた。  腰の奥から熱い潮のような射精感がうねり、体をのぼってくる。  大介は自分もまた、純平をくわえていた。さっき、ひどく感じていた裏筋とくびれた部分を舌先でたくさんこすってやる。  くぐもった声をあげて、純平の体がびくびくとひきつった。 「ん、ん、んーっ」  鼻に抜ける赤ちゃんのような喃語。助けを求めるようなせつなくて甘い声だ。  ぷはっと純平が降参したように大介をはなした。突然起き上がり、大介の髪をつかんで引き離そうとした。 「だめっ。そこはだめっ」  大介はひときわ深くくわえて、泣くように絶え間なく出てくる塩辛い液体ごと、思い切り吸いあげてやった。 「ああ、いく。もう、出る――あ、あ、あああっ」  悲鳴のような声をあげて、純平はのけぞった。  濃度のある青臭い液体を大介が飲みくだしたあとも、純平はしばらく上半身をひくひくと痙攣させていた。  ベッドに寝かそうとすると、純平は達しながら泣いているのだった。 「どうした」 「途中でやめてって言ったのに」 「いやだった?」 「だって……」 「両方が気持ちよくならなきゃだろ?」 「僕は、大介さんにいろいろしてあげたかったのに」  なのに――そこで純平は喉になにかつかえたように咳き込み、またほろっと頬に涙を落とした。 「初めての夜だから、ちゃんと、上手にしたかったんです。男も悪くないって思ってほしかったんです」  大介は少し弱って、慰めるように純平の体に布団をかけた。 「セックスのやり方って決まってるの? 人それぞれなんじゃないの? 俺には最高だったよ。やっと純平の気持ちいい顔が見られたし、声も聞けたし」  純平は恥ずかしくてたまらないように、布団のなかに顔までぐずぐずと埋まっていく。 「ずっと想像するしかなかったんだ。やっと本物に触ることができた。上手とか下手とかそういうことは、誰かと比べるときに出てくる言葉だろ?」  はっ、と純平は布団から目のところまで顔を出した。驚いた顔で大介をみつめる。 「俺は純平を誰とも比べない。だからずっと最高のままだ」  額にキスを落とした。純平は目をとじる。残っていた涙がまたつたった。どうしようもなくなって、まぶた上にまたキスをする。  純平がもそっとうごき、布団の上に両手を出した。大介の頬を包み、ゆっくり唇を自分の唇に誘導する。吐息が頬の産毛をやさしくそよがせ、そして一つに重なった。  純平はキスは好きなのだろうか。それとも、大介と何度かしているうちに恐くなくなったのだろうか。  唇の感触は、ダイレクトに大介の下半身を反応させた。ゆるい熾火になっていた自分の欲望に、ふたたび空気が吹きこまれた気がした。  それを察したのか、純平が体を起こした。 「今度こそ、僕の番ですからね」  嬉しげにいって、掛布団をめくった。

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