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第3話
カブ太&カブ子との暮らしにも慣れて、飼い方も把握して落ち着いた頃の事。
俺は緊張しながら今日を迎えた。
だって今日は俺の働く経理部に新しい人が出向してくるから。
約束は10時。
5分前に受付から内線がかかってきた。
いつもなら事務の子が出てくれるけど、別件で電話中だったから俺が出る事に。
できれば一発めの電話は取りたくなかった。
『今日からお世話になる本條 です』
「あ、はい…。すぐ行きます」
人件費の都合で会社には受付担当の職員がいない。
ポツンと電話が置いてあるだけ。
用事のある人は受付に着いたら、用事のある部署に内線で連絡して、後はその部署の社員が対応するシステム。
本條さんは経理システムを開発する技術者さん。
俺はただの事務員だから直接的に仕事で絡む事もなさそうだし、お世話係は先輩がするから俺にはさほど影響はないと思う。
でも人見知りだから上手くやっていけるか不安だったし、安定した自分の生活空間に知らない人が加わるのはちょっと嫌だった。
『お待たせしました』って笑顔で声をかけて、名前を言って…と、シュミレーションしながら受付へ出向いた俺は、言葉を失った。
そこには俺の好みどストライクの素敵な男性が立っていたから。
背が高くて目鼻立ちが整っていて、程よく筋肉質で爽やかで凛々しくて。
姿勢もよかったし、短い黒髪もオシャレなスーツもよく似合っていた。
俺の好みを具現化したらまさに本條さん。
こんな運命の出逢い的な展開、漫画やドラマの世界だけだと思ってた。
もったいなくて直視できない///
でも…見たい。
「今日からお世話になる本條です」
笑顔まで清潔感の塊で、思わず見惚れてしまう。
「えっと…どこかでお会いした事ありましたか?」
不思議そうに声をかけられて我に返った。
「い、いえ…。すみません、ジロジロ見てしまって。同じ経理部の松本 です」
「松本さんですね。よろしくお願いします」
うわぁ…低くて甘めで、声まで好み。
何かいいにおいがするし。
ドキドキしながら部署まで案内して、先輩にバトンタッチ。
軽く会釈をすると、優しく微笑んでくれた。
俺は浮かれ気分で席に戻った。
よかった、あの時電話を取ったのが俺で。
あんな素敵な彼と誰よりも早く言葉を交わす事ができたから。
俺の部書は11人で1チーム。
社員が向かい合って座り、課長がお誕生日席だ。
本條さんの席は俺の左斜め前。
ど、どうしよう…。
あんなに素敵な人が視界に入ったら仕事なんてできないよ…!
自己紹介をする彼も輝いていて、俺はもう彼に恋する乙女と同じ気分だった。
名乗っても、瞬きをしても、髪をそっとかき上げても、本條さんを構成するありとあらゆる要素全てがカッコイイ…///
噂はあっという間に広まって、他部署から女性社員が見学にきた。
普段、立ち寄らない男性社員もウロウロして様子を伺っているようだった。
本條さんをチラ見しながら仕事をしていたらあっという間に終業時間になった。
「松本、本條くんも君と同じ社宅なんだ。今日はもういいから一緒に帰ってやってくれ」
夢のような課長の言葉。
いつも無茶な仕事の振り方してくるけど、今日ので全部水に流そうと思った。
でも、いきなり本條さんと2人きりなんてどうしよう…。
上手く話せるかな…。
「松本さん、ご一緒してもいいですか?」
「あ、はい…///」
俺は小さな声で返事をした。
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