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第4話

社宅は会社から電車で6駅のところ。 都会でも田舎でもない程よい感じがお気に入り。 会社から駅までは歩いて5分くらい。 本條(ほんじょう)さんへのドキドキと人見知りが重なって、さらに上手く話せない。 感じ悪いって思われたらどうしよう…。 焦れば焦るほど何を話せばいいかわからない。 「松本(まつもと)さん、そんなに緊張しなくていいよ」 会社でも物腰の柔らかい人だと思ってたけど、プライベートの本條さんはさらに優しかった。 俺の緊張をほぐすように、話し方もくだけた感じ。 「ごめんなさい…俺、上手く話せなくて」 「そんな事気にしなくていいよ。少しずつ慣れてくれれば」 電車に揺られながら本條さんの話に耳を傾けた。 本條さんの家は俺の2軒隣。 そう言えば先週末引っ越しをしていた人がいた気がする。 出向と引っ越しが同時なんて大変。 仕事をする環境も住む場所も同時に変わるなんて俺には耐えられない。 きっと本條さんは優秀だから日本全国あちこちの会社でシステム開発に携わってるから慣れてるのかな…。 「家…誰かと住んでるの?」 「えっと…1人だけど、1人じゃなくて」 カブ太とカブ子は俺の家族。 「カブトムシが2匹…」 「そう。大切な家族なんだね」 本條さんは少し微笑んだ。 カブ太とカブ子を家族だって言ってもらえて嬉しかった。 本條さんの穏やかな笑顔や言葉選びが素敵だと思った。 外見だけでなく、中身も好きな人に巡り会えるなんて奇跡だと思った。 「本條さんは誰かと…?」 「家族も恋人もいないよ。単身用は空きがないと言われてね」 こんなに素敵な本條さんが独身でフリーな事に驚いたけど、ホッとする自分もいた。 「この後予定がなかったら一緒に晩ご飯でもどうかな?」 どこか知ってる?と聞かれたけど、俺には心当たりがなかった。 「俺…いつもコンビニ弁当で…」 せっかくのお誘いなのに俺のバカ! どうして昨日までの俺は、誰かを連れて行けそうなお店の開拓をしなかったんだろう。 そう思ったけど、今さらどうしようもない。 性格的に店員さんを呼ぶのも勇気がいるし、知らない人ばかりの中でご飯を食べるのも落ち着かないから。 「カブトムシ…見てみたいな」 コンビニで食べる物を買って、お邪魔してもいい?…と本條さんが聞いた。 親以外、誰も遊びにきた事がない俺の部屋。 ど、どうしよう…。 掃除もしてないから恥ずかしいし、ここで断ったら本條さんとの接点がなくなってしまう。 それだけは嫌だ。 もう少し…本條さんといたい。 「あんまり片付いてないけどいいですか?」 俺の言葉に、本條さんは優しい笑顔を向けてくれた。

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