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第8話
「久しぶりだね、カブ太、カブ子」
優しい本條 さんの話し声。
俺は買ってきたコンビニ弁当を温めながら大好きな本條さんを見つめていた。
本條さんが『松本 さんの家でゆっくり食べたいな』って言ってくれたから、一緒にコンビニに寄った。
本條さんは小さな幕の内弁当。
それから海藻サラダとインスタントの野菜スープ。
いつもはハンバーグやカツみたいなガッツリ系メニューと大盛りご飯だったのに…。
急に少食になってしまった事に首を傾げていると、最近飲み会続きで油物が多くてね…と苦笑した。
俺の前では無理せず、自分が本当に食べたい物を選んでくれた事が嬉しかった。
俺は大好きなオムライス。
カブ太とカブ子と同じ物を食べている気分になりたくて、最近お気に入りのフルーツゼリーも買った。
「カブ太とカブ子に子供が生まれたんです。土の中にいるから何匹いるかわからなくて…。見分けもつかないから、皆まとめてカブキッズって呼んでるんです」
温まったお弁当を並べながら声をかける。
「そうなんだ…。成長が楽しみだね」
本條さんはそう言いながらお茶のコップや割り箸を並べるのを手伝ってくれた。
たわいもない話をしながら幸せな気持ちでお弁当を食べて、食後のコーヒータイム。
俺はどうしても本條さんに聞きたい事があった。
こんな事聞いてもいいのかな…とも思ったけど、答えは本條さんしか知らないから…。
「あの…、本條さん。1つ聞いてもいいですか?」
「いいよ、何でも聞いて」
本條さんはマグカップを机に置いて俺を見つめてくれた。
「初めて家に遊びに来てくれた日…どうして俺の手を握ったんですか?」
俺が疑問をぶつけると、本條さんは申し訳なさそうな顔をした。
「…あの時は本当にごめんね。ちゃんと説明させて。でも、全部話すと長くなるんだけどいいかな?」
「はい…。時間はたっぷりありますから」
何を言われるんだろう…。
ドキドキしながら俺も本條さんを見つめた。
本條さんは、俺に一目惚れをした事を話してくれた。
もっと仲良くなりたくて触れた…とも。
俺が好意を持っていた事も気づいてくれていた。
俺の家でいい雰囲気になったから、このまま抱きしめてキスをして…と思っていたのに、俺が怒ったから怖気づいてしまったらしい。
俺に好かれてると思っていたのに、違うと知って一気に自信喪失してしまったとも教えてくれた。
フラれた経験のない本條さんは、俺に拒まれて相当落ち込んでしまったらしい。
申し訳ない事をしてしまったと思ったけど、それ以上に本條さんに選んでもらえていた事に驚いたし、すぐには信じられなかった。
でも、俺たちは最初から両想いだった。
「ちゃんと告白したらOKしてくれる?」
「は、はい…///」
「よかった。安心して告白できる」
ホッとしたように本條さんが笑う。
こんなに素敵な本條さんでも、そんな事思うんだ…。
何だか意外。
100%ないけど、もし俺が断るって言ったら告白してくれないのかな…?
「意気地なしでごめんね…。また松本さんに拒まれたら…と思うと、怖くてね」
「俺…拒んでなんて…」
「そうだね、全部俺の思い込みだ」
カッコよく決めたいのにな…なんて言いながら俺の手を握った。
待ちに待った大好きな本條さんからの告白。
本條さんの声も表情も言葉も全部覚えておきたいのに、嬉し涙で目の前がにじんでしまってよく見えない。
緊張で手汗もすごいし、心臓も爆発しそう///
ありとあらゆる色んな感情が混ざり合った俺は、フライングで泣いてしまった。
「まだ…告白してないよ」
可愛いね…と、優しい指先が俺の涙を拭ってくれた。
「俺は松本さんが好きだよ」
本條さんの甘くて優しい声、潤んだ瞳…。
シンプルな言葉だったけど、本條さんの真心が伝わる世界で一番素敵な告白だった。
今度は…俺の番。
心臓はバクバクだし、緊張で気絶しそうだけど、ちゃんと伝えたい。
結果がわかってるのがせめてもの救い。
カブ太たち、力を貸して…!
俺は大きく深呼吸をして本條さんを見つめた。
「俺も…本條さんが好きです///」
言えた…!
言えたよ…!!…と思っていたら、いきなりぎゅっと抱きしめられた。
俺…今、大好きな本條さんの腕の中にいる…。
あったかくて、いいにおい…。
俺を抱く力強い腕も、背中に触れる手の大きさも優しさも現実なんだ…。
こんな幸せ、夢みたい…///
嬉しくて、涙と体の震えが止まらない。
もっとくっつきたくて、俺からもそっと体を寄せた…。
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