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第9話

「好きだよ、湊世(みなせ)」 「ほ、本條(ほんじょう)さん。今、名前で…///」 「そう。ずっと湊世って呼びたかった。皆は名字で呼ぶから、いつか下の名前で呼び合う特別な関係になりたいって思ってた」 やっと呼べた…と、本條さんは愛おしそうに俺の頬を撫でてくれる。 大好きな本條さんに触れられた頰が熱を持ってるみたい。 そんな風に思っててくれたなんて…感動/// 「湊世も呼んで。紘斗(ひろと)って…」 期待するような本條さんの眼差し。 急に名前を呼んでと言われても恥ずかしい。 「ひ、紘斗…さん///」 「さん付けじゃなくてもいいよ」 「で、でも…いきなり呼び捨てなんて///」 ずっと憧れてた本條さんを呼び捨てにするなんて恐れ多い。 本條さんはもっと自分の価値を正しく把握して欲しい。 簡単に俺なんかの名前を呼んだり、俺なんかに尊い名前を呼ばせたりしないで欲しい。 「さん付けでも、湊世から呼ばれるのは嬉しい。もう1回呼んでみてよ」 「紘斗…さん///」 俺が呼ぶと目尻を下げて嬉しそうに笑う。 こんな優しい顔するなんて…。 「もう1回だけいい?」 「はい…紘斗さん…」 「うん…いいね、嬉しいよ。これから湊世の優しい声でずっと名前を呼ばれ続けるかと思うと幸せだ」 名前を呼ぶだけで喜んでくれるの? そんなに俺の事、好きでいてくれるの…? 俺…『ずっと』本條さんの側にいていいんだ…。 『ずっと』名前を呼んでもいいんだ…。 そう思ったら嬉しくて、幸せで…引っ込んだ涙がまた溢れてきた。 「俺の事になるとすぐに泣く湊世が可愛い。守ってあげたくなる…」 紘斗さんの大きな手が頰に触れる。 あったかくて気持ちよくて、ついついその手に頬ずりをしたくなってしまう。 遠慮がちに甘えると、本條さんの親指が唇を撫でた。 「…すぐに手を出す男は嫌い?湊世にキスしたくてたまらない」 どうしよう、何て言えばいいんだろう…。 『好きです』って言ったら乱れた生活しててそういう事に慣れてるみたいだし、『嫌いです』って言ったら本條さんを拒絶してるみたい。 早く返事をしなくちゃ…。 返事をしなかったら本條さんを困らせてしまう。 本当は嬉しくてたまらない。 俺も本條さんとキスしたい。 本條さんが俺を好きって言ってくれた奇跡を大切にしたい。 だからちゃんと言わなくちゃ。 勇気を出すんだ、俺…。 「…す、すぐに手を出されても、出されなくても、紘斗さんが…好きです///」 「それは…どんな俺でもいいって事?」 「は、はい///」 「…可愛い///どうしようもなく可愛いよ、湊世」 嬉しそうな本條さんの頰も真っ赤になってる…。 俺と…同じ…。 「好きだよ、湊世…」 瞳閉じて…って、甘い囁き。 俺は小さくうなずいて瞳を閉じた…。

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