本條(ほんじょう)さんと恋人になって、あっという間に10日が過ぎた。 本條さんと過ごすようになって、俺の無色な毎日は驚くほど色鮮やかになった。 彼と一緒だと、何をしても楽しいし、何を食べても美味しい。 側にいられるだけで本当に幸せ。 カブ太とカブ子も相変わらず仲良しだし、カブキッズ達も腐葉土を食べて日に日に大きくなっていく。 本條さんは会社帰りに毎日泊まりに来てくれる。 彼の部屋にお邪魔する事もあるけど、何となくカブ太達が気になって夜だけは家にいるようにしてる。 少しずつ彼の持ち物が増えていく俺の部屋。 イニシャル入りのお揃いのマグカップは、俺が紘斗(ひろと)さんの『H』を使う。 家の中では、俺だけの本條さんって思いたいから…。 洗面台に置かれた色違いの歯ブラシや、ソファーに置かれた読みかけの本條さんの本を見ると顔がにやけてしまう。 本條さんとは、毎晩俺のベッドでくっついて眠る。 最初のうちはドキドキして、お互いなかなか眠れなかったけど、慣れと睡眠不足とでだんだん眠れるようになってきた。 人気者で人付き合いのいい本條さんは、相変わらず飲み会のお誘いが多い。 どんどん仕事を任されるようになった彼は残業も増えた。 すれ違う日が多くて淋しい時もあるけど、彼に『恋人ができたから会社の飲み会は参加しない』ってプライベートダダ漏れ生活をして欲しい訳じゃない。 それに、ほろ酔いの本條さんは色気増し増しだし、いつもより『可愛い』とか『好きだよ』って言ってくれるからそれはそれで楽しい。 金曜日だけはお誘いを断ったり、仕事量を調整したりして俺と過ごしてくれるから、その気持ちだけで充分。 今日は待ちに待った金曜日。 一緒に会社を出て、電車に乗って…駅前のスーパーへ。 少しずつ自炊も始めたし、2人分の食料品をまとめ買いして、週末はのんびり過ごす。 俺には一つの望みがあった。 今夜…本條さんに抱かれたい。 毎晩ベッドで抱き合ったり、触れるだけの優しいキスをしたりするけど、本当にそれだけ。 俺たちの関係は何も進展しないまま。 それでも幸せだけど、抱きしめられて彼のにおいや体温に包まれていると胸がドキドキして、お腹の奥の方がキュンと疼くようになった。 もっと彼に触れて欲しい。 彼に触れたい。 時々、本條さんの手が俺のお尻に触ろうかやめようか…みたいに葛藤してる気配がするし、ふいに体を寄せた時に彼の下半身が兆している事もある。 だからきっと、本條さんも俺としたいって思ってくれてるはず。 でも…それを伝える勇気がない。 自分から言うのは恥ずかしいし、前に『ゆっくり関係を築いていきたい』って言ってたから、まだ『その時』じゃないのかも…。 本條さんから『抱いてもいい？』って聞いてくれないかな…なんて思ってしまう。 一緒に食事をしていても、変に意識してしまって本條さんの顔が直視できない。 食器を片付けている時に、彼がすぐ横に立つと避けてしまう。 挙動不審すぎる自分が嫌だ。 きっと様子がおかしいのが伝わってると思うから。 本條さんがお風呂に入っていったのを見計らって、俺はカブ太一家の飼育ケースの前へ。 「ねぇ、カブ太、カブ子どうしよう…。どうしたらいいのかな…」 2匹は好き勝手にゼリーを食べたり、散歩をしたり。 「カブ太とカブ子はどっちからのアプローチでどんな流れで結ばれたの…？」 そんなプライベートな事を聞くなんて申し訳ないとは思うけど、俺にはそんな事を相談できる友達もいない。 何か話してないと、緊張でどうにかなってしまいそう。 いっぱいいっぱいの俺は一方的に飼育ケースに話しかけ続けた…。