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第16話
抱き抱えられたまま、ゆっくりベッドに寝かされた。
視界が本條 さんの顔で埋め尽くされる。
腕枕をしてもらってる時の優しい顔と全然違う。
俺を欲してるちょっと余裕のない男の人の顔。
体で感じる本條さんの重みと温もりにドキドキが止まらない。
「湊世 は…誰かとした事ある?それとも初めて…?」
「えっと…」
セックスは初めてではないけど、20歳の時、半年くらい付き合っていた彼としてただけ。
少しずつ体が開発されてセックスが楽しめるようになってきた頃に別れてしまった。
それ以来、誰かに肌を見せる事はしていない。
「初めてじゃないけど…もう何年もしてなくて…///ごめんなさい…」
本條さんの瞳の奥に少しの切なさが見えた。
きっとがっかりさせちゃった…。
俺が新品じゃないから…。
初めてでもないのに、さほど技術がある訳でも感度のいい体や色っぽい体をしてる訳でもない。
中途半端に前の彼の癖がついていて初々しさや可愛らしさもないかも知れない。
本條さんは俺を好きって言ってくれたけど、上手くできなくて嫌われたらどうしよう。
色気も魅力もない体だって幻滅されたらどうしよう…。
せっかく両想いになれたのに…。
そう思ったら胸が張り裂けそうに痛くて涙がこみ上げてきた。
「ごめんね、責めた訳じゃないんだ。ただ、初めてではなさそうだから…過去に湊世を抱いた名前も顔も知らない男に嫉妬しただけだよ」
そう言って唇で右目の涙を拭ってくれる。
「本当に…?」
「そう、本当にそれだけだよ。湊世の過去を否定する気もないし、そんな資格がないのも充分承知してる。だから湊世が負い目に感じる必要もないし、俺は湊世が初めてでも初めてじゃなくてもかまわない。俺は『今』の湊世が好きだから何も謝らなくてなくいいよ」
今度は左目にキスをしてくれる。
その温かな唇にホッとする。
「嫉妬深い俺は嫌いになった?」
俺は慌てて首を横に振った。
だって俺も布団に嫉妬してしまうくらいだから、きっと似た者同士。
「紘斗 さんは…?」
俺と違ってモテるはずだから、きっと経験豊富。
聞いたら辛くなるってわかってる。
自信を失くすに決まってる。
「本当の事を言ったら湊世は嫌な気持ちになるかも知れない」
ほら、来た。
聞いても絶対いい事なんてない。
止めておいた方がいい。
そう思ってるのに、口は気持ちと裏腹な言葉を紡いだ。
「それでもいい。紘斗さんを知りたい」
「……過去には恋人もいたから、男も女もそれなりに経験してるよ」
ズキン…と胸が痛んだ。
本條さんは素敵だから皆が放っておかないに決まってる。
わかってたけど、やっぱり辛かった。
「でもね、湊世。心から好きだ、抱きたいと思った相手にこんなに我慢したのは初めてだよ」
我慢も楽しかったけどね…と、頬を撫でられる。
それって、俺が未成熟だから手が出せなかったの…?
俺が我慢させた…?
それとも、俺の事を誰よりも大切にしてくれたから…?
「紘斗さん、俺…!」
きっと眉間にシワとか寄って泣きそうな顔をしてたんだと思う。
「大丈夫。俺が望んでそうしただけだから」
そう言って本條さんは温かな手でゆっくり髪を撫でてくれた。
「大切にする。だから湊世のセカンドバージン、俺がもらってもいい?」
俺を見つめる真剣な眼差し。
俺への愛が伝わってくる。
俺もその想いに応えたい。
セカンドバージンも心も…俺の持ってるもの全て本條さんに捧げたい。
「はい…俺のでよかったら喜んで…」
俺も本條さんを見つめてうなずいた。
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