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第18話side.紘斗
〜side.紘斗 〜
俺が宝物だと伝えたら、驚いた顔をして言葉を失う湊世 。
俺のどこが…?どうして…?と言わんばかりの顔で、口をパクパクさせてるのがどうしようもなく可愛い。
湊世は俺の宝物。
それは出逢った時からずっと変わらない。
出向の初日、受付に現れた湊世の姿に心臓を撃ち抜かれた思いがした。
小柄で細身で、控えめな顔立ちで。
ナチュラルな雰囲気も清潔感のある感じも好みのタイプだった。
目立つ華やかな容姿ではないけれど、その飾り気がないところがいいと思った。
会社ではおとなしそうな印象だし、人見知りなのか全然こっちを見ようともしなかったけど、2人きりになるとそれも少し和らいだ。
初めて一緒に帰った日、楽しそうにカブ太とカブ子の話をする湊世は微笑ましかった。
気がつくと湊世を目で追っていた。
皆は湊世の魅力に気づいていないようだけど、一生懸命伝票を処理する横顔や、休憩時間におやつを頬張る柔らかな笑顔に癒された。
いくら出向に慣れていても、会社が違えば環境も人もやり方も何もかもが違う。
気もつかうし、慣れるまではそれなりにストレスも感じる。
湊世の存在はそんな俺の心のオアシスだった。
飲み会や食事の誘いも多かったけど、最初だから断りづらい。
湊世と話すキッカケになるなら…とも思ったけど、どうやら湊世は飲み会に参加しないタイプのようだ。
困っていたら、課長が気をつかってお誘い禁止令を出してくれた。
俺はそれを理由に飲み会の誘いをやんわりと断りながら、仕事を調整して帰宅する時間を湊世に合わせた。
少しでも湊世に近づきたかった。
『本條さん』と俺を呼ぶ優しい声も。
小柄な湊世が俺を見上げる表情も。
俺が見つめると恥ずかしそうにうつむく姿も。
何もかもが可愛くて、同じ時間を過ごす度に好きになった。
地道な努力が実って両想いになった俺たち。
すぐにでも湊世を抱いて自分のものだと実感したい自分と、ゆっくり絆を深めていきたい自分との葛藤。
それは幸せな悩みだった。
どちらにしても湊世が側にいる事に変わりはなかったから。
恋人同士の触れ合いをする時は、緊張してぎこちなかった湊世。
でも、全く経験がない訳ではなさそうだ。
キスをする時の呼吸の仕方や顔の角度。
湊世は男を知っている。
あぁ誰だ、湊世が唇を捧げた男は。
その男にどこまで触れさせたんだ…。
湊世がキスに応えてくれるのは嬉しかったけど、同時にモヤモヤする自分もいた。
でも湊世は余裕があって優しくてカッコイイ俺が好きなはず。
だからこの醜い気持ちは一生告げずにいるつもりだった。
湊世との関係を進展させるキッカケを見つけられないまま毎日が過ぎていった。
大好きな湊世に拒絶されるのも怖くて、一歩踏み出す勇気の出ない日々。
そんな毎日に終わりを告げたのは、湊世の部屋へ泊まりにいったある夜の事だった。
お風呂を済ませてリビングへ戻ると、湊世が隣の部屋にあるカブ太一家の飼育ケースに向かって何かを話していた。
湊世は本当にカブ太たちを大切に思っていて、『元気?』とか『おやすみ』とか、よく話しかけている。
その優しい声を聞くのも、穏やかな横顔を見るのも好きだ。
ふと、俺の名前が聞こえた気がして、悪いとは思いつつも聞き耳を立ててしまった。
「大好きな本條さんに抱いて欲しいけど、どうしていいかわからないんだ…。本條さんは俺の事、抱きたいって思ってくれてるのかな…」
体中に衝撃が走った。
湊世が俺を求めている。
俺と先に進むのを望んでいる…!
その喜びに涙がこみ上げてきて、胸と下半身が熱を帯びた。
同時に、愛してる湊世を不安にさせてしまった自分に腹が立った。
控えめな湊世がその気になるまで待とう。
湊世の気持ちを大事にしよう。
怖がらせないようにしよう。
湊世を大切にするふりをして、本当は俺が逃げていただけだった。
湊世を抱きしめたい衝動に駆られた。
『愛してる』
『湊世を抱きたい』
そう伝えて、心も体もとろけるようなキスをしたいと思った。
今夜、湊世と一つになりたいと思った。
「愛してるよ、湊世」
湊世の顔の輪郭をなぞるようにゆっくり撫でる。
とろんとした瞳で俺を見つめる湊世。
「湊世が好きだよ」
そう囁きながら柔らかな唇に何度も何度も口づけた…。
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