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第23話
週明けの月曜日。
紘斗 さんは会社でも俺を『湊世 』って下の名前で呼び始めた。
今までは苗字だったのに…。
俺も『紘斗さん』って呼べるようになったけど、さすがに会社で呼ぶ勇気はない。
紘斗さんの困ったところはそれだけじゃない。
それは、社員が集まる朝会での事。
社員が交代で1分程度のスピーチをするんだけど、当番の紘斗さんは、そこでまさかの交際宣言をしてしまった。
隠すつもりはなかったけど、そこまで大々的に発表されたら恥ずかしい。
皆は謎の盛り上がり。
おめでとうって言ってもらったり、冷やかされたり…。
人生で一番注目を浴びた気がする。
でも、少しずつ付き合ってる事がバレていって、紘斗さんに釣り合わないとか、ふさわしくないとかマイナスの反応をされたらどうしよう…って怖がる必要がなくなったから、それはそれでよかったのかも知れない。
紘斗さん、そこまで考えてくれたのかな…。
廊下で会った同期が教えてくれた話だと、転勤1か月後から解禁になった紘斗さんの飲み会の席で、紘斗さんは『湊世が可愛い』とか『付き合いたい』とか堂々と言っていたらしい。
ほろ酔いで、いかに俺という人間が可愛いかを熱弁していたらしい。
だから、紘斗さんの交際宣言も『上手くいったのか、おめでとう』的なムードになったとか。
そんなこんなで、俺たちは会社公認カップルになった。
偶然給湯室で一緒になっただけなのに、それを見た先輩が『仕事中にチューするなよ』ってからかってくるし、一緒にお昼を食べていると女性社員にキャーキャー言われる始末。
紘斗さんはご機嫌でどんどん仕事をこなしていくし、周りも楽しそう。
急展開についていけない俺はちょっと置いていかれてる感じ。
そんな生活が続いて、紘斗さんとの恋人生活や皆の冷やかしにも慣れてきた頃。
総務課の課長から2人揃って呼び出しがあった。
何だろう…?
付き合ってる事で何か言われるのかな…。
紘斗さんは不安がる俺の手を握って『大丈夫。何があっても湊世を離さないよ』って言ってくれた。
総務課の課長から聞かされたのは、来週中途採用の社員が入社してくる事。
結婚していてお子さんも3人いるから広い社宅が1軒必要らしい。
俺たち2人で住んでどちらかを空けてくれないかとの打診だった。
喜んだ紘斗さんは二つ返事で部屋を明け渡すと言い出した。
今も半同棲してるみたいな感じだし、将来は一緒に住みたいね…って話してたから俺も嬉しい。
今週末にもう引っ越してくるらしいから、俺たちは仕事を休んで平日に引っ越しを終える事になった。
最近転勤してきたばかりの紘斗さんの方が荷物が少ないから、紘斗さんが俺の部屋に住む事に。
何だかトントン拍子に事が運んで、状況についていくので精いっぱい。
そんな訳で俺たちは2人と2匹とカブキッズたちの大所帯になった。
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