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冬の雨 第2話(村雨)

 通話を終了した村雨は、待ち受け画面の春海の笑顔にふっと口元を綻ばせた。  寒さと雨のせいでちょっと気分が沈みそうになっていたのだが、春海の声を聞いたらなんだか安心して落ち着いた。  我ながらチョロいと思う。  本当は直接店に言って顔が見たかったが、今日は忙しくて店に行く余裕がないので電話で我慢した。  春海は最近、恋愛について勉強中らしい。  本人は隠しているつもりらしいが、部屋に明らかに恋愛系の本が増えている。  恋愛ねぇ……別に今のままでいいのに……  たしかに、恋愛事に多少疎いとは思うが、さっきだってほとんど言えてなかったけど村雨の無茶ぶりに答えて「大好き」と言おうとしてくれていたし、春海なりに元気づけようと晩御飯のリクエストを聞いてくれた。  春海の不器用な優しさと一生懸命な愛情表現が可愛らしいと思う。  打算的な愛の言葉よりも、春海のはにかんだ笑顔の方が余程胸がときめく。  まぁ、会話に色気はないけどね。  そのくせ、たまに無自覚に煽ってくるから困るんだよなぁ…… *** 「食器は俺が洗いますよ」 「え、でも……今日はわたしがやりますよ」  夕食後の食器洗いは村雨の仕事だ。  料理が苦手な村雨はいつも春海に夕食をご馳走になっているので、これくらいはさせてほしいと付き合い始めた頃に頼み込んだのだ。  でも、村雨が疲れている時や、今日のように雨で具合が悪い日は、春海が気を使って後片付けまでしようとする。 「……春海さん、大丈夫ですよ」 「え?」 「雨だから心配してくれたんでしょ?」 「あ……えっと……はい……」 「今日は昼に春海さんの声聞けたからそんなに酷くならなかったし、もう大丈夫です。でも、食器洗い終わったら、ちょっとだけ充電させてくださいね」 「え!?あ……はいっ!」  春海が真っ赤になって俯いた。  これでも一応、俺たちは恋人になってそろそろ半年になる。  お互い大人だし、恋愛未経験というわけでもない。  ただ、男同士で付き合うのはお互い初めてだ。  そのため、いろいろと探り探りな部分もあって、一番大変だったのがセックスだった。    年末にようやく最後までできたが、春海を抱いたのはその一回だけだ。    無理をさせないように出来る限り優しく抱いたつもりだが、それでも春海は翌日の昼前まで動けなかった。  春海はほぼ年中無休状態で店を開けているので、翌日の仕事のことを考えると……  また抱きたいなんて言えないんだよなぁ……  今日のように冗談交じりに言うことはあるけれど、実際には抱きしめてキスをするくらいしかできない―― ***

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