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鳴らない電話 第4話(春海)

「すみません、しばらく会いに行けません」  村雨からそう連絡が来てから、丸一日プッツリと連絡が途絶えた。  仕事の関係で忙しくて会えないことは今までにもあった。  だが、どんなに忙しくても、会えない時ほど連絡はたくさんしてくれていた。  それなのに、なぜか昨日から何も連絡がない。  何かあったのかな……?  春海は、一向に鳴る気配のない携帯を見つめた。  ただ忙しいだけなら、別にいいのだが……どうしても嫌な予感が頭をよぎってしまう。    もしかして、どこか具合悪いとか!?  ケガしたとか……!!  そういえば、ここ数日ちょっと変な咳をよくしていた。  風邪引いたのかな……?   「マスター、どうかしたのかい?」  常連客の『先生』の声で、はっと我に返った。 「あ、いえ。すみません、ちょっとぼーっとしてました。先生おかわり入れましょうか?」 「そうだね、貰おうかな」 「はい!」 「……村雨くんがどうかしたのかい?」 「えっ!?」  思わず手に持っていたカップを落としかけた。 「ななななんでですか!?」 「前にも言っただろう?マスターは顔に出やすいからね。彼のことは特に」  先生は、春海と村雨が付き合っていることを知っている。  知っていて、二人のことを密かに応援してくれている。 「昨日から……珍しく連絡が全然ないんです……」 「ほほぅ?」 「いや、あの……今までも会えないことはあったんですけど、こんなに連絡が何もないっていうのは……初めてだから……何かあったのかなぁってちょっと心配で……」  春海は、カウンターの下で指を組むフリをしてそっと指輪を撫でた。  春海の右手の薬指には、村雨からプレゼントされた指輪がついている。  本当は左手の薬指にはめたいけれど、まだ春海には常連客たちに二人の関係を話すだけの勇気がない。  村雨はそんな春海に、ずっとつけてくれているだけでも嬉しいと笑ってくれた。 「そうか、確かにあの彼から何も連絡がないのは心配だねぇ」 「まだたった一日なんですけどね」 「でも、普段とは違う何かを感じてるんだろう?」 「……最近ちょっと変な咳とかしてたから、もしかしたら風邪とか引いて寝込んでるのかなって……」  先生が鼻の下のヒゲを指で擦りながら、ふ~むと唸った。 「寝込んでいるなら看病をしに行ってあげればいいんじゃないかい?弱っている時には誰かにいて欲しいものだよ。それが愛しい人なら尚良いにきまっている」 「え、看病に?」  先生にそう言われて、ふと気づいた。  わたし……村雨さんの家に行ったことがない……  いつも村雨の方から会いに来てくれる。  春海が基本的に休みがないので、必然的にそうなっていた。  村雨に会えるというだけで嬉しかったので特に疑問に思ったことがなかったけれど……  付き合って半年にもなるのに一度も家に行ったことがないというのはどうなんだろう。  はっ!そういえば、恋愛漫画(教科書)によれば、恋人を家に呼びたがらないのは本命が他にいるとか実は家庭があるとか……って、いやいや、村雨さんはそんな人じゃないからっ!! 「マスター?」 「あ……えっと、でも……風邪じゃないかもだし……」 「とにかく、マスターから連絡してごらん?」 「……そうですね、ちょっと連絡してみます!」 *** 「……出ない……か……」  春海は今日何回目かのため息を吐いた。  ちょこちょこ時間を見つけては連絡をしているのだが、何も返信がない。    電源は切っていないみたいだけど……  どうしよう……本当に風邪を引いて倒れているのなら……看病をしに行きたい。  だけど、行こうにも家がわからない。  せめて村雨さんが電話に出てくれたら、住所を聞けるのに……  って、倒れてたら電話に出ることなんてできないよね!?  わたし……恋人なのにホントに役に立たないなぁ……    村雨に住所を教えて貰っていないことに、疑問や怒りの感情は湧いてこなかった。  むしろ、知らないことに気づいていなかった自分が情けなさ過ぎて、ため息しかでない……  恋人って何なんだろう……  村雨さんにとってのわたしは一体何なんだろう……  わたしはそんなに頼りないのかな?    いやいや、なんだかもう風邪を引いて倒れてるっていう前提で考えてしまっているけど、他の理由かもしれないし!!  ただ忙しくてわたしのことを忘れてるだけっていうことだって……  でも他の誰かと会ってるのかもしれないし……ってあああもう!!女々しい!!考えが女々しすぎるっ!! 「あ゛っ……」  考えていると悪いことばかり浮かんでくる。  全然集中できなくて、その日は珍しくグラスを3個も落としてしまった。 ***  ――結局連絡が取れないまま、夜になった。  店を閉めて掃除をしていると、携帯が鳴った。  モップを放り出して携帯に出る。 「はははい、もしもし!?」 「……あ、お久しぶりです」 「え?――」  画面に出ていたのは確かに村雨の名前だったのに、電話の向こうから聞こえてきたのは、村雨の声ではなかった―― ***

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