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君の体温 第7話(村雨)

 あれ……?  村雨は、目を擦りながら少し身体を起こして室内を見回した。  春海さん……?  部屋の中はシーンと静まり返って、自分以外の気配などない。  ……俺、夢見てたのかな……?  ポスっと枕に頭を預けると、天井を見上げた。  そうだよな……春海さんがここに来るなんてあり得ない。    そもそも春海は村雨の家を知らないはず。  なぜなら、この部屋に連れてきたことも、住所を教えたこともないからだ。  教えたくなかったわけではなく、ただ、教える必要がなかっただけだが……  だから……来れるはずがないんだ。  あ~……住所教えておけば良かった……  今から電話してお願いしたら来てくれるかなぁ……  いや、どっちにしても店があるから無理だよな……    無理……だよなぁ……  そんなことを考えているうちに、いつのまにかまた眠りに落ちていた。 ***  懐かしい鼻歌が聞こえる―― 「はる……はるみさ……ん?」  村雨は、人の気配を感じて起き上がった。 「あら、起きた?まぁくんの愛しの伯母さんですよ~!」    伯母はやけに嬉しそうに笑いながら、村雨の額に優しく触れた。 「うん、ちょっと下がってるかな」 「伯母さん……なんでここに?」 「昨日まぁ君に電話したら、風邪引いた―って言ってたじゃないの。いつもの風邪なら数日は続くだろうと思って様子を見に来たのよ。一人暮らしで寝込むといろいろ大変だからね」  電話?  会社と春海に連絡を入れたのは覚えているが、伯母からの電話は全然記憶にない。  きっとその時には熱で朦朧としていたのだと思う。 「うわ~、ごめん……俺伯母さんからの電話覚えてないや……何の話した?」 「え~?一人は淋しいよ~!伯母さん来て~!って言ってたじゃないの!」 「それはない」 「ひどい!!まぁくんノリが悪い!」  伯母が泣きまねをする。  いつも明るくて元気な伯母のことは好きだが、こういう時にノリを求められても…… 「今の俺にそんなもの求めないでよ~……」 「ふふ、ごめんごめん。寝言で伯母さんの知らない女の子の名前を呼んでたからちょっと意地悪しただけよ」 「……え?」  女の名前?  誰だ……? 「はるみさん?ってずっと呼んでたわよ?まぁ君、今は彼女いないって言ってたくせに~!ちゃんと伯母さんにも紹介してよぉ~?」 「っ!?……あ~……マジで俺……春海さんって言ってた?」 「うん、何回も。ちなみに伯母さんの名前は一度も出なかったわよ。妬けるわねぇ……」  伯母の言葉は途中から頭に入って来なかった。    俺……寝言で春海さんの名前呼んでたのか……そりゃあんな夢見るくらいだしなぁ…… 「付き合って長いの?」 「……え?あ、あぁ、え~と……付き合って……半年くらいかな……」 「へぇ~?ね、可愛い?」 「あ~……可愛いよ」 「ぃやん、いいわねぇ~!何歳なの?――」 「ぅ~ん……年上――」  熱のせいでボーっとしていたので、伯母の質問に素直に答えてしまっていた。  村雨は普段はあまり伯母に自分のことを話さないので、伯母も、ここぞとばかりにいろいろと聞き出そうとする――――さて、お粥も食べてお薬も飲んだから、後はたっぷり寝るだけよ。仕事の疲れもあるだろうし、ゆっくり休みなさいね」 「うん……伯母さんありがとう」 「具合が悪い時くらい、頼ってよね。何歳になっても、まぁ君は私の大事な甥っ子で、可愛い息子なんだから」  伯母がふっと微笑んで、村雨の頭を優しく撫でた。  ふと、伯母の家に引き取られてから、夜中うなされて目を覚ます度に伯母がこうやって頭を撫でてくれていたことを思い出した。  伯母夫婦は俺を養子にするつもりだったのに、俺が村雨姓を変えたくないと言ったので、養子縁組はせず村雨姓を残しつつ、本当の家族のように育ててくれた。 「ん……おやすみなさ……」 「おやすみ、まぁ君―――― 「あら?あなたは……」  眠りに落ちる間際、遠くの方で、伯母が誰かと話している声が聞こえた気がした――    ***

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