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痕をつけてほしくて 第17話(春海)
春海は、村雨の腕の中からそっと抜け出すと、携帯を持って店に下りた。
時計をチラッと見てから、幼馴染の理恵 に電話をかける。
「あ、理恵ちゃん?ごめんね、遅くに……」
「まだ起きてたから大丈夫だよ、どうしたの?」
「あのね……話を聞いて欲しくて……」
「もしかして、彼氏にまた何かやらかしちゃったの?」
「うん……実は今日ね、村雨さんにキスマークを――」
寝る前に村雨としたやり取りを理恵に話す。
「――う~ん、じゃあ、結局キスマークはつけてくれなかったんだ?」
「うん……」
「どうせ律がまた緊張しまくって硬くなってたんじゃないの?あんまり緊張されてたら、彼氏だって手出しにくいでしょ。もうやることはヤってるんだし、今更そんなに緊張することないじゃないの」
「それはわかってるけど……でも勝手に身体がね……」
「彼氏って怖いの?Sっ気があるとか、乱暴だとか……律、暴力受けたりしてないよね!?」
「そんなことしないよ!!いつもめちゃくちゃ優しくしてくれるから、全然怖くはないんだよ!怖いんじゃなくて、恥ずかしいっていうか……ドキドキしすぎてどうしたらいいのかわかんないんだよぉ……あ~~どうしよう村雨さんに嫌われちゃったかなぁ――……」
「嫌いになんてなりませんよ」
突然店の電気がついて背後から村雨の声がした。
「ひゃっ!?むむむ村雨さんっ!?」
驚いて振り返ると、村雨が腕を組んで壁にもたれていた。
「あれー?もしもーし!律~?」
「あ、あの、また今度かけるね!!ごめんね、ありがとう!!」
村雨の声に驚いて落としてしまった携帯を慌てて拾って通話を切った。
「あの……いつからそこに……?」
「今ですよ。春海さんがいないから探しに来たら、話声が聞こえたから……」
「あぁ……」
村雨がちょっと眉間に皺を寄せて近付いてくる。
村雨さん怒ってる!?
どどどどうしよう……自分の知らないところで他の人に自分のことを話されてるのって……なんか、陰口叩いてるみたい……だよね……?そんなんじゃないんだけど……
「あの、村雨さん、すみません!えっと今のはですね……その……」
必死に説明をしようとしている春海に、村雨が腕を振り上げた。
叩かれる!?
思わずギュッと目を閉じて身構えていると、バサッと音がして背中が温かくなった。
あれ?……
何が起きたのかわからずキョトンとしていると、村雨が頬を両手で包み込んできた。
「あぁ、やっぱり。こんな薄着でいるから身体冷えちゃってるじゃないですか!」
「え……」
「ほら、ちゃんとこれ着て下さい!今度は春海さんが風邪引いちゃいますよ!?」
村雨が腕を振り上げたのは、春海に上着を羽織らせるためだったらしい。
言われるまま上着に腕を通してちゃんと着込んだ。
「とりあえず、ここは寒いから上行きますよ」
「あ、そそそうですよね!!はい、上行きましょう!」
***
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