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やきもちバレンタイン 第12話(村雨)
「こんばんは」
「こんばんは!お仕事お疲れ様です!」
一週間ぶりの春海の家だ。
「春海さん、これプレゼント」
「え?」
玄関で出迎えてくれた春海に、背中に隠していたプレゼントを渡す。
「わぁ、可愛い!」
「なんか長持ちするやつらしいです。何て言ってたっけな……何とかフラワー……」
靴を脱ぎながら、花屋で聞いたことを話す。
「プリザーブドフラワーですか?」
「あ、それです!」
「ありがとうございます!でも、どうしたんですか?これ」
「ん~……お礼です。ずっと俺の看病してくれてたから。店と看病と両方だから、毎日大変だったでしょ?ここから俺の家まで結構距離あるし……」
春海は連日、店を閉めた後、看病をしに来てくれていた。
村雨の家と、この店との往復だけでもかなり大変だったはずだ。
「そんなことは……」
「後は、バレンタインも兼ねて」
「バレンタイン?」
「俺が寝てる間に終わっちゃったみたいで、チョコは用意出来なかったんですけど……」
今朝、村雨の穴埋めをしてくれていた人たちに挨拶に行くと、訪問先で預かったと言ってバレンタインのプレゼントを渡された。
紙袋いっぱいになったそれらのプレゼントは、ここに来る前に駅のロッカーに放り込んできた。
春海へのプレゼントは、バレンタインとお礼を兼ねて最初から買うつもりだったので、仕事終わりに花屋に寄って買ってきた。
「村雨さんモテるからバレンタインは大変そうですよね」
「ん~……今年は休んでたから全体的には少なかったですけどね……あ゛」
村雨はソファーに置きかけていた鞄をボトッと落とした。
しまった、口が滑った。
わざわざロッカーに放り込んできた意味ぃいいい!!!俺の馬鹿ぁあああ!!
「それでも貰ったんですね?」
「え~と……俺の代わりに担当先を訪問してくれた人たちが預かって来ちゃってて……」
「へぇ~、で?それはどこにあるんですか?」
春海さんの笑顔が怖い……
「え、あの……駅のロッカーに……」
「ロッカー?どうして?持ってくればいいのに」
ん?
「だって、春海さんイヤでしょ?俺がそんなの持って帰ったら……」
あれ?春海さん怒ってないのかな?
「……別に構いませんよ?バレンタインなら、わたしもお客さんから頂きますし」
「えっ!?待って、何貰ったんですか!?お客さんからって、いつものあの女子高生たちとか!?」
「まぁ、あの子たちからも貰いましたけど……他にも常連さんから……」
「どんなの貰ったんですか!?」
「それは秘密です!」
「えええ、春海さぁ~~ん!!」
そうだった……春海さんもモテるんだから、バレンタインいっぱい貰ってるよなぁ……
「ほら、早く座って下さい。ご飯食べますよ~!」
「ぅぅ~……嫉妬してるのは俺だけですかぁ~!?」
村雨は春海が誰かに貰ったと考えただけで嫉妬してしまうのに、春海は全然余裕の顔だ。
この温度差……絶対俺の方が好きが大きいよなぁ……
テーブルに突っ伏している村雨の前にお皿が並んでいく。
食欲をそそる匂いが漂ってきた。
あ、美味しそうな匂い……って、あれ?これって……
匂いにつられて顔をあげた村雨は、目の前のお皿を凝視した。
「春海さん!?これっ……」
「わたし村雨さんに関しては結構やきもち焼きなんですけど?」
春海がそう言うと、ツンと口唇を尖らせてそっぽを向いた。
お皿の上には、ハート型のハンバーグが乗っていた。
真ん中にギザギザの切り込みが入っていたけれども……
え、もしかして……やきもち焼いてハート切っちゃったの!?なにそれ可愛っ!!
でも……
「春海さぁあああああああああん!!お願いだからハートは切らないでぇえええっ!!!」
「わたしからのバレンタインです。どうぞ」
春海がにっこり笑った。
「ぅぅ……ありがとうございますぅ……」
くっそぉ~!!春海さんの嫉妬は可愛いし、ちょっと嬉しいけど、来年からは他の子からのバレンタインは絶対に受け取らないようにしよう……
「美味しいですぅ……」
「それは良かったです」
どんなにぐちゃぐちゃになったとしても、春海が作ってくれたご飯は美味しい。
しょんぼりしながらも美味しいと顔を綻ばせて食べている村雨を見て、春海が少し苦笑してその後嬉しそうに笑った――
***
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